創業者紹介

角島ジェラート POPORO

秋枝 美香

Mika Akieda

ジェラートづくりで
笑顔の輪を広げて
地域を盛り上げていきたい。

秋枝 美香59years old

Mika Akieda

宮城県塩釜市生まれの54歳。宮城県で父が経営するジェラートショップ「ポポロ」を手伝っていた2011年に、東日本大震災に被災。橋の架け替え工事による立ち退きと父の他界により、2016年11月にやむなく閉店。2017年2月に夫の実家がある下関市豊北町にIターン。翌年5月に「角島ジェラート POPORO」をオープン。
 
角島ジェラート POPORO
創業:2018年5月
住所:下関市豊北町大字神田3873
HP: http://www.g-poporo.com

東日本大震災を乗り越え、「ジェラートづくりで人々を元気づけたい!」という思いを強くした秋枝さん。夫の故郷である下関市豊北町に移住し、念願だったお店をオープンします。故郷である宮城や移住先である山口の企業や生産者とつながりを持ちながら、地域全体を盛り上げていきたいと夢を抱く秋枝さんに、これまでの道のりと現在、今後の目標などをお聞きしました。

これまでの経歴をお聞かせください。

宮城県の高校を卒業後、歯医者に就職しましたが、結婚・出産を機に退職しました。しばらくは家事と育児に専念していたのですが、今から約20年前、父がジェラート店を開業することになって、その手伝いをすることになりました。しばらくは売場を担当していましたが、人手不足から製造部門を担当するようになり、気がつけば18年の歳月が過ぎていました。順調に経営していたジェラート店に大きな変化があったのが、2011年に起こった東日本大震災です。実家は、津波にのまれて全壊、地域全体も甚大な被害にあいました。幸い店鋪は津波の被害にはあいませんでしたが、ジェラートを製造する機械が1台ダメになってしまって…。とても商売どころの状況ではありませんでした。でも、「できるところから復興を始めないと」というお客様の言葉に背中を押され、作業工程の少ないソフトクリームを製造して、いただいた代金の半分を復興支援として寄付する形で、震災の1カ月後から営業を再開しました。

営業を再開されてみていかがでしたか?

自分たちよりも大きな被害を受けたお客様が食べに来てくださって「ここが開いていて良かった」「ほっとする」と感謝され、スイーツには人を元気にする力があることを改めて感じました。それまでは、自分の仕事についてあまり深く考えたことはありませんでしたが、この仕事をしていて本当に良かったと心から思うことができました。ジェラートづくりへの思いをさらに強くしていたその矢先、店のすぐそばにある橋の架け替え工事に伴って、立ち退きを余儀なくされてしまいました。すぐに移転先が見つかるるものと思っていたのですが、なかなか移転先が見つからず…。また、同じ時期に、経営者である父が病に倒れ、他界してしまいました。この先どうしようかと途方にくれていたとき、山口県下関市豊北町に住む夫の両親が「こちらに移住して商売を続けたら?」と提案してくれました。やはり、私にできるのはジェラートづくりでお客様を笑顔にすること。父の思いを引き継ぎ、もう一度ジェラートをお客様に味わってもらいたいという思いから、新たな地で開業することを決意しました。

創業のためにどんな準備をされましたか?

まずは、空き店舗を探すために、下関市の移住相談窓口「住まいる下関」を訪ねました。ほかにも、下関市の産業振興課や商工会、創業支援カフェ「KARASTA.」など、相談にのってもらえそうなところには片っ端から足を運びました。でも、なかなかいい空き店舗が見つからなくて…。思いついたのが、車による移動販売でした。ところが、調べてみると、移動販売車とは別に製造所も作る必要があるため、通常の店鋪販売よりも高くついてしまうことが分かりました。次に考えたのが、自宅の敷地内に製造所を作り、「道の駅北浦街道ほうほく」にテナントを出店する方法でした。駅長さんにはOKをいただいたのですが、ドアの間口が狭くてジェラートのケースが入らないことが分かり、またも振り出しに戻ってしまいました。そうして最終的にたどりついたのが、実家の敷地内に店鋪を構えることでした。

困難な道のりだったのですね。その後どうされたのですか?

山口県、(公財)やまぐち産業振興財団が主催する「女性創業セミナーWITTY」に参加して、経営について一から学ぼうと考えました。セミナーで耳にしたのは、それまで聞いたことがない用語ばかりで…。スマホで検索しながら一つひとつ学んでいきましたね(笑)。3カ月間、事業計画書の書き方や経営戦略などを学びながら、これまでの人生を振り返り、誰にどんなジェラートを売るのか、何を目指すのかなど、深く考えることで事業計画を見直すことができました。何回か振り出しに戻っているので、その度に事業計画書は書き直しましたね(笑)。修正に修正を重ねてブラッシュアップした事業計画を、セミナーの最後に行われたプレゼン大会で発表し、「地域活性化賞」を受賞したことは、大きな自信につながりました。

そのほかにセミナーで得たことはありますか?

創業という同じ目標をもつ方々と出会えたことです。励ましあえる仲間の存在はとても大きかったですね。もし一人で創業しようとしていたら、おそらく途中で心が折れてしまい挫折していたと思います。「不安なのは自分だけじゃない!」と気持ちを奮い立たせることで、最後まで頑張ることができました。ロゴや販促物、SNSでの展開など、お店のトータルプロデュースはセミナーで知り合った方にお願いしました。彼女も移住者ということですぐに意気投合し、卒業した今でもいろいろな相談に乗ってもらっています。店名に「角島」という地名を入れたのも彼女のアイデアです。

創業資金はどのように準備されたのですか?

銀行から借入をしました。ちょうどプレゼン大会が行われた日の帰りに、銀行からの融資が決まり、ようやく実現化への道筋が見えてきました。原料調整室と製造室に分ける、各部屋に手洗い場が必要など、宮城のときとは違う条例にとまどいましたが、一つひとつクリアしていき、シーズン本番を前にした5月のオープンになんとかこぎつけました。震災を乗り越え、何度も計画を練り直した上でのオープンだったので、本当にやっとという気持ちでした。

そのほかに準備されたことはありますか?

宮城で営業していた頃は、カボチャやブルーベリーなどの地元の食材を使ったフレーバーを提供していました。そこで、山口でも地元の食材を使ったフレーバーを開発したいと考え、「道の駅 北浦街道ほうほく」には何度も足を運び、生産者や特産品などの情報をお聞きしました。また、駅長さんには、移住したばかりで収入がないこと、ゆくゆくはジェラートのお店をしたいことなどをお伝えして、自分のお店をオープンするまでという条件だったにも関わらず、従業員として雇っていただきました。本当にありがたかったですね。また、オープンの際には、プレスリリースを配信してメディアに告知していただいたり、道の駅のマスコットキャラクター「ほっくん」が応援に駆けつけてくれたりするなど、さまざまなバックアップもしていただきました。また、下関市の商工振興課からは、さまざまな相談窓口を紹介してもらいました。そのうちの一つが、山口県よろず支援拠点です。そこで創業に関するさまざまな専門家を紹介していただき、商標登録や広報戦略などのアドバイスも受けました。

創業後、事業はスムーズに進んでいますか?

一番多かった時には1日200組以上にご来店いただいて、製造が追いつかないくらいでした。鹿児島や大阪など遠方から来られる観光客がいらっしゃるなど、予想をはるかに上回る順調なスタートを切ることができました。しかし、観光地がオフシーズンとなる冬場は売り上げが下がってしまいます。そこで、山口県商工会連合会の小規模事業者持続化補助金を活用してオンラインショップを作成し、クリスマスケーキやプレミアムフレーバーセットの販売を始めました。今後は、商品数を増やしたり、商品紹介ページを改善したりして、オンラインショップの売上も伸ばしていきたいと思います。

創業して良かったことは何ですか?

やっぱり、お客様に「おいしい!」と言っていただけることですね。何回作っても、お客様の反応は毎回気になります。それに、宮城にいた頃よりも随分社交的になりました。実は、かなりの人見知りなので、セミナーに通うのも、相当ハードルが高かったんですよ(笑)。でも、お客様や地域の方々など、たくさんのつながりができたことで、人と出会うのが楽しくなりました。新しい出会いにワクワクできる自分になれたこと、自分の世界が広がったのも大きな収穫ですね。それに、これまで何度もくじけそうになりましたが、その度に家族や周りに支えられて乗り越えてきました。今の私があるのは、いろいろな人のおかげだとつくづく感じています。

これからの目標をお聞かせください。

透明の容器に入れたミニパフェやアイスケーキといった見栄えがするような商品や、クッキーやシュークリームなどの焼き菓子とのコラボも考えています。さらに、柚子味噌やお醤油、酒粕以外にも、地元の食材を使ったフレーバーをどんどん増やしていく予定です。近所の方が「これで作れない?」と食材を持ってきてくださることも多いので、地域のみなさんと一緒にジェラートづくりを通して良い循環が生み出せたらいいなと思っています。「角島ジェラート POPORO」をきっかけに地域全体が盛り上がって、観光に来られたお客様に、このまち全体が楽しいところだなと感じていただけると嬉しいですね。

最後に、現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

一人で創業しようとすると、視野が狭くなって行き詰まってしまうこともあると思います。そんな時は、勇気を出して周りに助けを求めてみるといいと思います。途中であきらめたらそれは失敗ですが、成功するまでやり続けたら失敗は失敗ではなくなります。あきらめず、強い信念と勇気をもって、自分からアクションを起こしてください。そうすれば、自ずと道は開けてくると思います!