創業者紹介
ジニーズランプ株式会社
白石 知之
Tomoyuki Shiraishi
デジタルの力で看護業界を変え、
人生を最期の最期まで楽しめる
豊かな社会にしていきたい。
白石 知之
Tomoyuki Shiraishi
宇部市出身。高校を卒業後、専門学校で看護を学び、山口大学医学部附属病院に入職。働く中で抱いた看護業界の課題感を解決するために、「医療の脅威から患者の人生を守る」をコンセプトとしたジニーズランプ株式会社を創業。看護師と患者をつなぐプラットフォームとしてアプリ「らんぷのナースさん」を開発し、看護師の新しい働き方を浸透させるべく邁進中。
ジニーズランプ株式会社
創業:2024年6月
住所:山口市小郡令和1-1-1
HP:https://sites.google.com/view/genienurse/
これまでの経歴をお聞かせください。
地元・宇部市の高校を卒業後、岡山県の専門学校で看護を学び、山口大学医学部附属病院に入職しました。最初の数年間は整形外科に、その後はドクターヘリのフライトナースや災害派遣チームDMATのロジスティクスとして救急・災害医療の現場で活動をしてきました。その他、日頃から力を入れてきたものとして、重症患者のリハビリもあります。とにかく看護の仕事が大好きで長らく携わってきましたが、一方で、看護業界には課題感があるとずっと考えてきました。
どうして創業しようと思ったのですか?
当初は創業なんて考えておらず、「看護の課題感を全く畑違いのプログラミングで解決できたら面白いかもしれない」という気持ちで、山口市の産業交流スペース「Megriba」で開校されたエンジニアを養成するスクール「G’s ACADEMY」に参加したんです。すると、同期たちはみんな志が高く、創業を目指す人ばかりでした。そんな仲間たちと一緒に学んでいるうちに、「看護の課題感を解決するために、やっぱり自分も創業しよう」と気持ちが変わっていきました。中途半端な気持ちで取り組んでいてはダメだ、本気で変えたいならやるしかないと思うようになったんです。それで、看護業界の課題感を解決するため、そして、自分の看護に対する理念を具現化するために、2024年6月にジニーズランプ株式会社を創業しました。
看護のどのような部分に課題感があると思われたのですか?
医療は病気やケガを治す一方で、医療を受けるがゆえに、副作用や合併症が出たり、長い闘病生活で衰弱してしまったりと、少なからずリスクがあります。せっかく病気が治った頃には寝たきりにならざるを得ないということが結構あり、これを業界ではPICSや医原性のフレイルと言います。確かに命は助かったけれど、その先の人生を寝たきりの状態で過ごさねばならない患者に対し、それで本当に「救った」と言えるのだろうか…。そんなふうに、私自身「人を救う」ということの本質にすごく悩む時期があったんです。そこでやっぱり入院中や治療中、闘病中の看護師の関わりがすごく大事だと感じたんです。それで、医療現場には高い理念や高い技術を持った看護師がどうしても必要なのだと。けれどもこの業界は成功報酬型ではないので、質の担保はなかなか難しい。それに公的保険の範囲ではやってあげられることも限られます。そこで、看護師による患者へのアプローチの質を高めるために、看護師が成功報酬型で働ける仕組みを作ればいいんじゃないかと思い付いたんです。その仕組みができれば、潜在ナース問題も解決できるかもしれないと考えました。
事業内容を教えてください。
介護や医療管理上の事情で簡単に外出できない利用者(患者や要介護者)と、隙間時間に資格を活かして社会貢献や経済活動をしたい潜在ナースによる保険外看護サービスのマッチングサービスの提供です。具体的には、「孫の結婚式に参列したいけど、家族の手を煩わせたくない」とか「温泉旅行にいきたいけど、一人では移動や入浴ができない」など、看護師に外出の付き添いを希望されている利用者と看護師とをマッチングさせるプラットフォームとなるアプリ「らんぷのナースさん」を開発し、運営しています。私自身も看護師として実働することもありますが、基本的にはプラットフォーマーとして活動しています。このサービスの提供により、利用者の自己実現や社会とのつながりの支援、フレイルの予防など、人生の豊かさを向上させることができます。また、「夜勤ができない」や「家事・育児と常勤との両立が困難」など、潜在ナースにならざるを得なかった看護師たち対し、新しい働き方を提供することができます。ちなみに、アプリは「G’s ACADEMY」在籍中にプロトタイプを作り、そこからブラッシュアップさせました。現在、アプリ自体は弊社と登録している看護師との業務ツールといった形で展開していますが、ポイントの集積や通院の際の診察結果のレポートを共有したりするような利用者側にとっても有用なツールも構築中で、もっともっと発展させていく予定です。
創業の地に山口市を選んだのはなぜですか?
ジニーズランプ株式会社の拠点は、「G’s ACADEMY」が開校された産業交流スペース「Megriba」に置かせてもらっています。地元の宇部市ではなく、山口市を拠点とした理由は、創業にあたりいろんな支援をしてくださった山口市に恩返しをしたいという思いからです。それに、「Megriba」には経営や資金調達に関する相談を受けてくれる専門家が常駐し、コワーキングスペースなど設備が充実しているのも大きな理由です。また、「Megriba」のあるKDDI維新ホールには、山口商工会議所や(公財)やまぐち産業振興財団、山口県よろず支援拠点など、創業や経営の相談に乗ってくれる機関が集結しており、補助制度の情報がいち早くもらえたり、経営者や金融関係の方など、いろんな方々との交流の場になったりと、とにかくメリットが多いんです。
創業にあたりどこかで学ばれましたか?
ずっと医療の現場で働いてきましたから、創業や経営には縁がなく、「会社を作るってどうやるんだろう?」という初歩の初歩からのスタートでした。ですから、「Megriba」で開催されたビジネスプランコンテストで入賞し、副賞として期間限定で専門家が無料で相談に乗ってくれる特典をいただいたので、その専門家に株式会社と合同会社、個人事業主の違いから教えてもらうところからのスタートでした。それから引き続きアドバイスをいただきながら、定款を作ったり、事業計画を練ったり…、という流れです。加えて、山口商工会議所が主催する起業カレッジにも参加し、そこでは事業計画をさらに磨いていきました。私の場合、最初からどこかに創業や経営について学びに行くのではなく、とにかく自分の思い描いている事業を発信することに注力しました。「これを実現するにはどうしたらいいの? 誰か教えて!」という気持ちでビジコンなどの場に立っていましたね。でもそのおかげで「山口県よろず支援拠点」や(公財)やまぐち産業振興財団の「やまぐち創業補助金」についての情報がもらえ、たくさんの方々にアドバイスをいただけ、結果としてベストなやり方だったと思っています。
創業資金はどのようにして準備されましたか?
自己資金に加え、日本政策金融公庫と信用金庫からの融資と、(公財)やまぐち産業振興財団の「やまぐち創業補助金」を活用して準備しました。アプリは自分で開発できますから、主な使い道は福祉車両や医療資機材の購入です。実際のところ、福祉車両や医療費機材にかかる費用は結構な金額で、「やまぐち創業補助金」をいただくのは正直無理かもしれないと思っていました。挑戦するだけ挑戦しようと思い切って申請してみたら無事に採択され、とても嬉しかったですね。この「やまぐち創業補助金」への挑戦は、事業計画をさらに詰めていくいい機会になりました。もし採択されなかったとしても、挑戦する価値は十分にあったと思っています。
創業の準備で特に大変だったことは何ですか?
私の場合は申請ごとが大変でした。中でも一番大変だったのは、制度融資を受けるために何らかの許認可が必要となり、急遽2種免許を取りに行って旅客事業の許認可を取ったことでしょうか。でも今となっては、将来的に介護タクシー事業をする計画がちょっとだけ前倒しになったとポジティブに捉えています。
創業後、現在の状況はいかがですか?
雇用形態は変わりましたが、病院の勤務を続けながらジニーズランプ株式会社の経営をしています。「らんぷのナースさん」に登録している看護師は現在8名で、みなさん私が信頼をおける人たちばかりです。ありがたいことに、利用者も少しずつ増えています。創業時に大々的な宣伝活動はしていませんが、いくつかのメディアが紹介してくれ、それを見た人たちからの問い合わせから利用につながるケースが多いです。リハビリ通院の際にサービスを利用してくださった方が、「患者側の立場で看護師が付き添ってくれて安心できた」と大変喜ばれていたのはすごく印象的でしたね。その方はリハビリの内容が本当に自分にとって最適なのかをずっと悩んでおられたそうで、看護師が間に立って聞きづらいことを確認してくれたことがとてもありがたかったとおっしゃっていました。病院が提供するリハビリが適しているという根拠が明確になったことで、「これなら通えそう!」と言ってくださった時に、これこそが私のやりたかったことと実感しました。売上はまだまだですが、このサービスを世に浸透させ、看護される側も看護師も生き生きと暮らせる社会の実現に貢献していきたいです。
今後の目標を教えてください。
私の事業のコンセプトは、「医療の脅威から患者の人生を守る」です。そのために、看護師と利用者のマッチングアプリ「らんぷのナースさん」を使って、何か病気を患って看護が必要となっても、介護が必要となっても、最期まで豊かな人生を送れるよう支援していきます。自分でも壮大な夢だと思いますが、人生の最期の最期まで楽しく生きていけるような社会を作りたいんです。そして、看護師の新しい働き方を確立することで、看護業界も変えていければと思っています。まずはアプリをグレードアップさせること、看護師の登録者を15名まで増やすことから始めていきます。
最後に、創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。
月並みなことを言いますが、やはり一歩を踏み出してみることが大切だと思います。もともと「らんぷのナースさん」は「外出は感動の始まり」をコンセプトにしています。その理由は、心が躍るような感動体験とか人との出会いとか社会の関わりは、玄関を出た一歩その先にあると思っているからです。創業もそれと一緒で、やっぱり一歩踏み出してみないとわからない。私は一歩踏み出せたからこそ、いろんな方々の助けを得られ、今に至ります。まずは自分のやりたいことを発信するところから始めてみてはいかがでしょう? みなさんの創業を応援しています。