創業者紹介

合同会社おひさまっこ

河村 礼子

Reiko Kawamura

「納得のいく発達支援をしたい」
創業したからこそ実現できている
自分たちの理想を追い求める事業所。

河村 礼子58years old

Reiko Kawamura

下関市生まれ、山口市在住。指定障害者支援施設や心身障害児母子通園訓練事業などで経験を積み、志を同じくする仲間たちと「合同会社おひさまっこ」を設立。自分たちが理想とする支援を実現するべく、日々奮闘中。
 
合同会社おひさまっこ
創業:2015年12月
住所:宇部市中野開作193-4
HP:https://go-ohisamakko.jimdo.com

「自分たちの理想の発達支援をしたい」と、志を同じくする仲間たちと障害児通所支援事業「おひさまっこ」を開設した河村礼子さん。心身の発達において特別な配慮が必要と思われる幼児に対して、小集団での療育を通して発達を促し、基本的生活習慣の自立や社会性を身につけられるよう日々奮闘しています。そんな河村さんに、なぜ自分たちで事業所を開設しようと思ったのか、そして創業までの道のり、創業後の現在の様子などをお聞きしました。

創業しようと思った理由を教えていただけますか?

高校生の頃の病気がきっかけで、養護教諭を目指すようになりました。短期大学卒業後、教員採用試験を受けながら臨時採用で養護教諭をしていたのですが、ご縁があってある指定障害者支援施設に就職しました。そこで大人の利用者さまと接するうちに、幼児期における親や周りの大人たちの関わり方が、心身の発達に大きく影響することを痛感し、「子どもたちに関わる仕事がしたい」と目標は大きく変わっていきました。それから、心身障害児母子通園訓練事業やNPOなどで実際に子どもたちの発達を支援する仕事に携わり、夢は叶ったと思いました。しかし、50歳を前にして「こうして子どもたちに寄り添えるのも後10年」と考えたとき、もっと自分たちのやりたいことを追求した方がいいのでは、この仕事を納得いくまでやりきった方がいいのでは、という思いに駆られました。これまでも「もっとこうしたい」「こんなことができたらいいのに」という場面があり、仲間たちと「自分たちで事業所をつくる?」という話をしたことはありました。でもここに来て、「やらないと後悔する!」という思いが一段と強くなったのです。

創業の地として宇部市を選んだ理由を教えてください。

一緒に「おひさまっこ」を立ち上げた仲間の一人が宇部フロンティア短期大学の出身だったご縁から、創業前に児童福祉と障害児保育がご専門の水田先生にいろいろとご相談させていただきました。宇部という地域を選んだ決定打は、お話をする中で、「宇部の厚南地区には、児童発達支援の施設がない。あの辺りにできたらいいのに…」と、ふと先生が言われたことでした。もともと仲間たちと宇部か防府でできたらいいね、と話していたので、背中を押された気分でした。私たちはほとんどが山口市在住のメンバーなのですが、求められている場所に開設し、その地域のお役に立てることが一番だと考えました。

創業にあたり、まずは何から始められましたか?

女性起業家に支援があることをチラシで知り、何の計画もないまま、「事業所を開設したい!」という気持ちだけで「山口県よろず支援拠点」に電話をしました。開業資金もなく借りる当てもないままぼんやりとした構想を話したところ、「そんなことでは創業なんてできない!」とバッサリ言われました。「宇部で創業したいなら、まず宇部商工会議所が主催する起業塾に行きなさい。経営について学びなさい」と。厳しい言葉をいただきました。今となってはこのアドバイスがなければ実現できなかったと思い、心から感謝しています。

創業塾ではどのようなことを学びましたか?

週に1回、約3ヵ月をかけて、創業に必要な知識から実際の事業計画書作成まで、中小企業診断士の講師の方々から「経営」についてしっかり教え込まれました。中でもためになったのは、その地域のニーズを知ることと、きちんと計画を立てることの重要性です。ただ事業を始められたらいいのではなく、「継続できる事業」にすることが大切で、そこまで考えることが創業すること、経営することだと学びました。特に私たちの仕事は子どもたちとその保護者を支援するものです。継続できなくては、安心して利用していただけることができません。事業計画書の作成では、講師の方々からも商工会議所の方々からも、何度も何度も修正が入りました。毎回、こんなに丁寧にチェックしてもらえるのかと、真剣にサポートしてくださる姿に驚きました。完成させた事業計画書と資金計画書を持ってビジネスプランコンテストに挑んだところ、おかげさまで3位を獲得。これは大きな自信につながりました。

資金集めはどのように行われたのですか?

自己資金と金融機関からの借り入れです。それと、ビジネスプランコンテストで上位入賞したことで、宇部市から助成金をいただくことができました。ビジネスコンテストに参加しなくても宇部市から認定されれば受けられるものなのですが、コンテストに参加し、上位に入賞できた場合、より手厚く支援してもらえるので本当に助かりました。起業塾の講師の方々と宇部商工会議所のみなさんの徹底的な指導があったからこその結果です。創業資金は、建物の賃料と改装費、子どもたちの机や事務用品などに使いました。

創業前に不安や苦労されたことはありますか?

やっぱり、本当に利用してくださる方が集まるのかどうかが一番の不安でしたね。本格的にスタートさせる前に、宇部フロンティア短期大学の水田先生のお力をお借りし、別の場所でプレオープンのような形で週に1回ほど運営してみましました。その時は8名くらいの利用があり、少しホッとしたのを覚えています。また、場所探しにも苦労しました。子どもたちの安全を考えて大通りに面していないこと、そして、送迎時に起こりうる渋滞や子どもたちの声についてもご理解いただくことなど、いくつか課題がありました。けれども、ここでも商工会議所の方があちこちを探してくださったり、ご近所への挨拶も同行してもらえたりと、まるで一緒に創業するかのように協力してくださいました。何から何まで本当にお世話になりました。

創業後、事業はスムーズに進んでいますか?

最初の目標設定は1日平均6名にご利用いただくことでした。開設して3年目を迎える現在は、1日平均8名にお越しいただき、全体の登録者数も26名になりました。2年目には言語聴覚士も加わり、支援の内容もだんだんと充実してきているのを実感しているところです。また、地域の方々にもだいぶ存在を知られるようになってきて、いろいろな方から声をかけてもらえるようになりました。最近は、幼稚園や保健師さん、お医者さんからのご紹介も増えています。最初の頃は「給料を払えないかもしれない…」と悩むこともありましたが、やっと交通費も支給できるようになりました。スタッフは通常時に6名、緊急時に対応していただける方を1名確保しています。

創業して良かったことはありますか?

自分たちの思い描いていた支援ができるということももちろんありますが、それよりも何より、子どもたちの成長を日々間近で見ていけることです。子どもたちのできることがだんだんと増えていく様子やできたことによる子どもたちの笑顔など、お母さんやお父さんに申し訳ないと思うくらい(笑)、先に見させていただいています。保護者のみなさんから「ここに来てよかった」と言っていただいたり、ここを卒業した子どもたちが保育園や幼稚園、小学校に入園・入学するときに「うまくいった」「スムーズになじめた」と報告を受けたりして、新しい生活が楽しめているとわかったときは、「創業して本当によかった!」と思います。

今後の目標を教えてください。

まずは全職員が気持ちよく働けるように経営を安定させて、継続していくことが目標です。それと同時に、地域との関係性をもっと深め、信頼され、愛される事業所を目指したいです。また、私たちの事業は、幼児とその保護者が対象なのですが、できれば小学校入学以降もずっと、関わっていけたらと思っています。すでに月に1回、「おひさまっこ」を卒業された子どものお母さんやお父さんにも来ていただける日を設けています。私たちが発達支援に関するアドバイスを行うだけでなく、同じ悩みを持つ保護者同士がつながって、情報交換をしたり、思いを共有したりしていただけると嬉しいです。とにかく、今はいいメンバーに恵まれ、みんなで理想の形を追求できる状況になっています。理想を実現させるためには後10年はかかるかなと思いつつも、ただただ前へ進んで行こうと思います。また、遠い目標としては、私たちの事業を継承してくださる若い人たちに出会い、経営理念や事業内容を理解していただくことです。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

県や市、商工会議所などが主催する創業セミナーや創業塾に、まずは参加してみることをおすすめします。事業を始めるにあたっての申請などは調べればわかりますが、私の場合、「経営する」ということがどういうことなのかを、起業塾に参加して初めて深く理解できました。後は気持ちの問題です。「支援があるからやろう」ではなく、「どうしたらやれるのか?」を常に追求する姿勢が大切だと思います。