創業者紹介

まつもと

松本 玉枝

Tamae Matsumoto

やりたいことを目指した創業で、
人生に張り合いが生まれた。
忙しくも充実した日々に感謝。

松本 玉枝77years old

Tamae Matsumoto

下松市生まれ。趣味が高じて始めた毛糸店を経営していたが、「こども食堂」という新たな夢を見つけ再出発を決意。約30年続けた毛糸店の幕を下ろし、2017年2月、夢を叶えるための第一歩として、弁当や惣菜、軽食を提供する「まつもと」を創業。
 
まつもと
創業:2017年2月
住所:下松市栄町3-8-21
HP:なし

約30年間営んできた毛糸店をやめ、「こども食堂」の開設を目指して再出発を決意した松本玉枝さん。運営にかかる資金をコンスタントに得るために、まずは弁当や惣菜の販売、軽食を提供する「まつもと」を創業しました。創業から2年、今では地域の方々の憩いの場、そして一人暮らしの高齢者の食生活を支える大切な場所として愛される存在になっています。日々忙しく奮闘する松本さんに、創業までの道のりや創業当時の状況、創業して良かったことなどを聞いてみました。

これまでの経歴と創業のきっかけを教えてください。

若い頃はこの近辺にあった大きなショッピングセンターの中で、夫婦で電器店をやっていました。妹夫婦にその電器店を譲ってからしばらくは、就職などはせずふらふらしていたのですが、だんだんと生活にハリがなくなってきて…。何か趣味を見つけようと軽い気持ちで下松市が開催した編み物教室に行ったのをきっかけに、毛糸店を開業することを思い立ちました。それから約30年間、この場所で毛糸店を経営していましたが、私も含め常連のお客様も年を取り、だんだんと編み物が難しくなってきて、「そろそろ引退かな?」と考えるようになりました。残りの人生をただボーっと過ごすのも嫌でしたし、常連客のみなさんからは「ここの場所をなくさないで」という声もいただいていたので、正直とても迷っていましたね。そんなとき、新聞で「こども食堂」を取り上げている記事を見つけ、「これをやりたい!」と思ったんです。それが創業のきっかけでした。

「こども食堂」ではなく、弁当店になった理由を教えてください。

創業を決意してからは、「こども食堂」について色々と調べたり、県内各所で開催された創業関連イベントなどにも参加したりしました。中小企業診断士の先生に相談もしましたが、その時は「こども食堂はやめておきなさい」と言われました。資金面はもちろんのこと、すでに70歳目前だったので、年齢的な面も考慮されてのことだと思います。現実問題として「運営し続ける」にはやっぱり資金も体力も必要になるんですよね…。でも私はいつでもポジティブなので、「だったらお弁当でも販売して、そこから資金を得ながらやればいい!」と考えました。「まつもと」が誕生したのは、私のこの安易な発想からです(笑)。

創業のためにどんな準備をされましたか?

毛糸店で創業の経験はありますが、30年以上も前の話で…。手順についてはすっかり忘れていたので、初めての創業と変わりませんでした。ですから、まずは下松商工会議所に相談に行き、創業に関する一連の流れを改めて教えてもらい、必要な書類や手続きなどについても説明をしていただきました。養成講習会を受講して、飲食店を経営するためには必須となる食品衛生責任者の資格も取得しました。店舗は、毛糸店に通ってくれていたお客様や地域の方々とのつながりを考えた結果、これまで借りていたテナントをそのまま継続し、弁当店に改装することを決めました。ただ、水回りが一切なかったので結構大きな改装になりましたね。費用はすべて自己資金です。夫からは「この年になってなんでそんなことを!?」と大反対されましたが、そこは押し切りました。反対しても、やりたいと思ったことは絶対にやると知っているので、主人も半分諦めてましたね(笑)。厨房の造りや配置に関しては、工事をしてくださった業者の方に相談に乗ってもらいながら進めました。飲食店の工事の実績があるプロの方々のアドバイスのおかげで、保健所による店舗チェックも無事クリアできました。

集客のために何か宣伝活動はされましか?

開業直前に周りのマンションにポスティングをしただけで、それ以外はやっていません。最初にドーンと宣伝して突然たくさんのお客様に来ていただいても、対応するのが難しいかなと思って。お客様が増えるにつれて私の作業量も増え…と、そうやって徐々に慣れていければいいなと考えていました。オープン当初は毛糸店の常連客や友人、知人などが来てくださって、そこからだんだんと地域の方々に輪が広がっていきました。もともとこの辺りには弁当店や飲食店があまりなかったこともあって、ご近所にお一人で住んでいらっしゃるご高齢の方々もよく通ってくださいますね。

創業後、現在の状況はいかがですか?

とてもありがたいことなんですが…、もう毎日忙しくて大変です(笑)。朝7時にお店に出てお弁当を作り、日替定食を提供し、依頼があればさらに仕出し弁当まで…。さらに、どんなに忙しくても全て手作りにしたいというこだわりもあって。そんな状況なので、「こども食堂」をやるために始めた弁当店の方で手一杯になってしまっています。完全に本末転倒ですね(笑)。まあ私は気持ちの切り替えが早いので、今は一人暮らしのご高齢の方にとって、ご飯を食べられたり、おかずを買いに来られる貴重な場所なのだからと、自分に言い聞かせて頑張っています。最初の目標とは変わってきていますが、地域や人々の役に立っていることには違いありませんからね。

スタッフについてはどうされていますか?

開店当初は、毛糸店の頃の常連客や友人にお願いしてお手伝いしてもらっていました。現在は、飲食関係の仕事で定年を迎えた友人や妹など、3名ほどパート勤務で働いてもらっています。ここで働くことが、みんなの生きがいや張り合いになっていたら幸せですね。定年を迎えてからも何かをしたいと思っている方たちに、働く機会を提供し、さらに元気になってもらえる場所であり続けられるといいなと思っています。反対していた夫も、今ではとても協力的で、買い出しや配達などを手伝ってくれています。夫にとっても今は生きがいになっているんじゃないかなと思います。

創業して良かったことは何ですか?

生きがいができたことですね。毛糸店をやっていたときは、毎日が何となく過ぎていましたが、今はとにかくやることがいっぱいで、今日も明日も明後日も走って逃げるくらいの勢いで過ぎていきます。だけど、そんな忙しさの反面、大きな達成感と充実感が残っているんですよね。今の時代、みんなとても長生きですから、何もせずにボーッと生きているわけにはいかないと私は思っています。もちろん、定年後は旅行をしたり、ショッピングしたり、何か趣味を見つけたりなど、人それぞれいろんな生き方があると思います。ただ、私は旅行も嫌いで、特に欲しいものもありません…。なので、今の毎日がとても気に入っています。その他には、創業を通じていろんな方々と出会えたことですね。お客様もそうですが、商工会議所の方や指導してくださった先生など、たくさんの人たちに支えられて今があると思っています。

今後の目標を教えてください。

大きくしたいとかもっと利益を出したいという考えはありません。今くらいのペースが理想的ですね。いや、もうちょっと忙しくない方がいいかもしれません(笑)。ただ、遠い先の目標ではありますが、いずれは誰かに引き継いでもらいたいなとは考えています。一人暮らしのご高齢の方が気軽に寄れて、安心安全でおいしいご飯が食べられる、地域の憩いの場というのは、これからも絶対に必要だと思うので。それと、現状を考えるととても無理な願いですが、落ち着いたら今度こそ「こども食堂」をはじめて、朝食だけでも提供できたらいいなとも思っています。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

失敗は誰にでもつきものなので、やってみないとわかりません。なので、やらないよりかはやった方がいいと思います。ですから、やりたいことが見つかったら、まずは動いてみることをおすすめします。ただ、私のように思いつきで行動を起こすのは止めた方がいいと思います(笑)。想像だけで簡単に弁当店を始めましたが、蓋を開けたら本当に忙しくて大変でした。一度始めたらそう簡単にやめることもできないので、もう少し周囲のアドバイスをちゃんと聞いておけば良かったなと思います(笑)。でも、一度やると決心したら、身の丈に合った規模で、他人に迷惑をかけず、正直に誠実にやっていればきっと大丈夫ですよ。