創業者紹介

やまぐちシードル

原田 尚美

Naomi Harada

徳佐りんごを使ったシードルで人と人をつなぎ、
山口の食文化をもっと豊かにしたい。

原田 尚美40years old

Naomi Harada

山口市出身。大学進学を機に関西で過ごした後、32歳のときに山口市地域おこし協力隊としてUターン。任期満了後の2019年9月に、山口市阿東の徳佐りんごを使ったスパークリングワインの企画販売を手掛ける「やまぐちシードル」を創業。
 
やまぐちシードル
創業:2019年9月
住所:山口市小郡下郷589
HP:http://yamaguchi-cidre.net

大学進学を機に関西で暮らしていた原田さん。食べることやワインが好きだったことから、平日はOL、週末は里山保全活動やぶどう園の援農ボランティアなどに参加していました。そこで、山梨や長野でマイクロワイナリーの存在を知り「農と食と人をつなぐことを仕事にしたい」と思うようになり、2016年に山口市地域おこし協力隊制度を利用して地元にUターン。2019年に山口市阿東の徳佐りんごを使ったスパークリングワインの企画販売を手掛ける「やまぐちシードル」を創業しました。夢を実現した原田さんに、創業までの道のりや良かったこと、今後の目標などをお聞きしました。

これまでの経緯を教えてください。

学生時代まで山口市で過ごし、大学進学を機に関西に移りました。そのまま関西でIT機器メーカーに就職し、内勤営業をしていました。ペアの営業マンは広島や四国にいたので、やりとりは電話かチャットがほとんど。直接顔を合わせる機会がありませんでした。それに、機器は関東の商品センターから発送されるため、商品を手にすることもなく…。なんとなく仕事をしている実感や充実感を得ることができませんでした。そこから、大学在学中から抱いていた「自分が一生やりたい仕事、心からワクワクする仕事って何だろう」という思いが次第に強くなっていきました。また、三姉妹の長女なので、いずれは地元に帰らないといけないかなとも考えていました。

どうして地域おこし協力隊に応募されたのですか?

学生時代にゲストハウスを泊まり歩いたことで、日本各地に友達ができました。その友達の誘いで、里山再生や棚田保全などのプログラムに参加するようになり、だんだんと食や農への興味が増していきました。ワインが好きだったことから、ぶどう農家さんの援農ボランティアにも参加。平日は大阪でOLをしながら、週末は農村に通う暮らしをおよそ5年間経験しました。そうした生活をする中で、大阪でのワイン会や農村でのワインづくりを通じて、ワインは最強のコミュニケーションツールだと実感したんです。畑でブドウを育てて、そのブドウでワインをつくって、ワインを通じて会話が生まれ、人と人とのつながりが広がっていく。自分もそんなものづくりに関わりたいと思うようになりました。ちょうど同じ時期、知人から山口市で地域おこし協力隊の募集が始まることを聞き、自分がやりたいことをカタチにできるかもしれないと考えてUターンすることにしました。

どうしてシードルを作ろうと思われたのですか?

地域おこし協力隊のミッションが「山口市の地域特性を踏まえたビジネスモデル構築」だったこともあり、最初は山口市にワイナリーをつくりたいと考えていました。どこにブドウを植えようかと市内を視察していたとき、「シードルを作りたい」という阿東徳佐のりんご農家さんとの出会いがありました。これまで何度かシードルを飲んだことはあったのですが、改めて調べていくうちに、ワイン市場は既に飽和しているけれど、シードル市場はまだ未開拓の状態だから、独自のポジションを確立できるかもしれないということに気づきました。阿東徳佐は西日本最大のリンゴの産地だから、福岡や広島も商圏に入れられる。また、山口県の特産果実である徳佐りんごを使用することで、より山口らしさを大切にしながら自分がやりたいことをカタチにできるかもしれないと考えて、2017年にシードルプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトではどんなことをされたのですか?

まずは、りんご農家さんの協力を得て、ジュースやシードルの飲み比べ、農業体験のモニターツアー、りんご園でのお花見ピクニックなどのイベントを企画して、「産地と人をつなぐ、人と人をつなぐ」ことを実践しながら、「場づくりやツールとしてのお酒をつくりたい」という思いを周囲に発信していきました。2018年3月には試験製造免許を取得。観光協会の一角を借りて、どういうシードルを作っていくのか、どの品種が向いているのか、試作研究を行いました。シードルの醸造技術は、知人から紹介してもらった島根県の醸造家の方に教えていただきました。出来上がったシードルは、山口県産業技術センターの協力を得て、味や成分を数値化して比較。同時に、商品化に向けての製造委託先を探し始めました。また、シードル文化を定着させるためのヒントを得るために、スペインのサンセバスチャン地方も視察しました。

創業に向けてどこかで学ばれましたか?

地域おこし協力隊任期中に、(公財)やまぐち産業振興財団が主催する女性創業セミナーWITTYを受講しました。起業のプロセスやビジネスモデルの作り方を学べたのはもちろんですが、創業を目指すたくさんの仲間に出会えたことは大きな収穫でした。情報をシェアしたり、励まし合ったりすることで、起業へのモチベーションを維持することができました。さらに、山口商工会議所が主催する山口起業カレッジにも通い、自身のビジネスモデルをブラッシュアップ。ここで学んだおかげで、いつ、何を、どうすればいいのかが見えてきて、視察で聞く質問もより具体的になりました。創業資金は山口市の「地域おこし協力隊起業支援補助金」を活用し、初年度のシードルの製造などに充てました。

創業して良かったことは何ですか?

私の思いに共感して応援してくれる方々に出会えたことが、何よりも嬉しいですね。イベントを企画すれば、場所を提供してくださったり、シードルに合わせて料理を作ってくださったりと、さまざまな形で協力をいただいています。販路も知人の紹介で徐々に広がり、現在は山口市を中心に、道の駅や酒店、りんご園など、県内14カ所で販売しています。最初に手掛けたシードルは直販だけで2週間で完売!予想以上の反響をいただき、自分でも驚いています。

創業して大変だったことは何ですか?

最初に大変だと思ったことは、取引先とのやりとりですね。1回目に委託先にオーダーしたときは思い通りの仕上がりだったのですが、2回目のときはリンゴの品種が違ったためか、糖度が高かったためか、発酵が進みすぎていて、出来上がったシードルはイメージしたものとは異なるものでした。でも、契約書を交わしていなかったため、解決に向けての話し合いがなかなか前に進まなくて…。さまざまなリスクを想定して、書面での確認をとっておくべきだったと反省しています。

今後の目標を教えてください。

現在の1,650ℓの約4倍となる6,000ℓ以上にまで生産量を増やして、リンゴの産地内に醸造所を構えることが目標です。そして、カフェなのか、セレクトショップなのか、まだあるべき形は見えていませんが「やまぐちシードル」の世界観が体感できる場づくりもしたいですね。シードルに人が集い、地元食材とのマリアージュを味わえて、楽しい時間を共有できる。そんな人と人がつながる場を提供して、シードル文化を広めていきたいと思っています!

最後に、創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

まずは、いろいろな人と出会い、思いを伝えることがスタートだと思います。私のように地域おこし協力隊員の活動を通じて、いろいろな人と知り合うのも一つの方法かもしれません。そうすることで、応援やアドバイスをしてくださる人が現れますし、自分の考えも整理できると思いますよ。