創業者紹介

個別療育baseくぼっちゃの家

久保 雅弘

Masahiro Kubo

その子らしさを大切に。
環境に適応できるよう
個別の療育を展開したい。

久保 雅弘33years old

Masahiro Kubo

茨城県生まれ、宇部市在住。周南市の医療福祉施設で9年間、小児を専門とするリハビリ業務に携わる。2021年、宇部市に「個別療育base くぼっちゃの家」を開設。現在、専門学校YICリハビリテーション大学校非常勤講師、山口県作業療法士会 小児部会長も務める。

個別療育baseくぼっちゃの家
創業:2021年9月
住所:宇部市常盤町2-1-28 常盤町ビル2階 B
HP:https://sites.google.com/view/kubocchahouse/

医療・福祉の枠にとらわれず、もっと多くの子どもたちや親御さんの力になりたいと、作業療法士として独立することを決断した久保雅弘さん。発達障がいの診断の有無や年齢に関係なく、誰もが支援を受けられる「個別療育baseくぼっちゃの家」を開設しました。学生時代からの夢を叶えた久保さんに、創業までの道のりや現在の状況、今後の目標などをお聞きしました。(取材日:2022年10月26日)

これまでの経歴をお聞かせください。

生後間もなく、先天性胆道閉鎖症の手術をし、18歳になるまでは、毎年検査入院のために福岡市の小児病院に通っていました。入院中に年下の子と多く触れ合った経験から、将来は子どもと関わる仕事がしたいと思うようになっていきました。保育士か作業療法士のどちらにしようかと迷ったのですが、過去の自分と同じように病気、あるいはケガや障がいなどにより、日常生活に不安を感じている子どもたちが少しでも楽になれるように手助けをしたいという思いから、作業療法士を目指そうと決めました。そこで、専門学校YICリハビリテーション大学校で作業療法士の資格を取得。卒業後は、周南市の鼓ケ浦こども医療福祉センターで、自閉スペクトラム症や注意欠陥多動症、ダウン症、脳性まひなど、小児を専門とするリハビリ業務に9年ほど携わりました。

どうして創業しようと思ったのですか?

アメリカでは各学校に専属の作業療法士が配置され、診断の有無に関わらず、誰でも支援を受けられます。日本では、療育を謳った施設は増加傾向にあるものの、専門的な指導や援助を行える作業療法士が介入している施設はほとんどありません。 また、前の職場で親御さんから「受診待ちの期間が長い」「病院で診断はつけたくないけれど、子どもの発達は気になる」「リハビリの回数が少ない」「リハビリが終了して、相談できる場所がなくなった」といった声を聞き、必要とするすべての人に支援が行き届いていないことに気づきました。 専門的なリハビリを受けるためには医師の診断が必要ですが、少ない専門医療機関に受診の希望が集中しているため、なかなか予約を入れられないのが現状です。病名がつかなくても、おもちゃでうまく遊べない、運動が苦手、落ち着きがないといった困難を抱えているお子さんもたくさんいます。そうした背景から、診断の有無や年齢に関係なく、誰もが支援を受けられる施設を開設したいと考えました。

事業内容を教えてください。

作業療法士という専門の立場から、発達の遅れがあるお子さんに対して、感覚統合理論をベースにした指導や援助を行っています。一対一の完全予約制で、個別相談や個別療育、知能検査などを実施しています。室内には、ボールプール、バランスボード、トランポリン、スイングなどの感覚統合遊具を設置し、遊びを中心にさまざまな活動を通して、認知機能や身体機能を個別に伸ばしていきます。療育と相談スペースを分け、お子さんだけでなくそのご家族やケアを提供する人の個別相談にも応じています。

創業の地に宇部市を選んだのはなぜですか?

一番の理由は、子どもの発達支援を行う上で中核となる大きな病院がなかったことです。個人病院はありますが、先生が一人で診療されているため、受け入れ人数には限りがあります。人口比率から考えて宇部市にも支援を求めている人はもっとたくさんいるはず。それに、自分が育った地域のお役に立ちたいという思いもありました。物件選びは、アクセスの良さ、わかりやすさを考慮して中心市街地で探しました。現在の場所に決めた一番のポイントは、感覚統合遊具を置ける広さと天井高です。2階ですが、エレベーターを備えているので、車椅子やベビーカーでも安心してご利用いただけます。

創業に向けてどこかで学ばれましたか?

新たなビジネスや地域づくりを誘発するイノベーション創出拠点「うべスタートアップ」が主催する研修会やセミナーに参加しながら、創業に対する知識を深めていきました。特に心強かったのが資金計画についてのアドバイスでした。事業計画書を作成することで、事業を継続していく上で欠かせない中長期的な視点を持つことの重要性を学ぶことができました。 また、(公財)やまぐち産業振興財団の「やまぐち創業補助金」についても教えていただきました。けれどもタイミングが悪く、11月に相談に行ったときには、既に応募の締切日を過ぎていて…。どうしても補助金を獲得したかったので、創業スケジュールを見直し、準備を進め無事に採択されました。交付された補助金は、感覚統合遊具の購入に使用させていただきました。

顧客獲得のためにどんな工夫をされていますか?

個別療育施設はおそらく山口県内では初の試みです。なおかつ発達障がいに対する理解がまだ十分とはいえない状況にあります。そこで、宇部市や山口市の小児科と連携を図り、講演を行うなど、発達障がいや療育の質そのものの理解に努めています。また、病院が行っている児童発達支援・放課後等デイサービス、児童発達支援センターなどに専門家として介入する機会をいただくなど、地域とのつながりを広げながら営業活動を行っています。

現在の状況はいかがですか?

最初は思っていたよりも依頼件数が少なくて焦りましたが、SNSでの情報発信、メディアでの露出やクチコミのおかげで、認知度は徐々に高まってきています。一度利用していただくと、隔週や月1ペースで継続利用される方がほとんど。現在およそ20名の方が定期的に利用されており、1年経ってようやく経営が安定してきました。とはいえ、まだまだ十分とは思っていません。SNSなどを通じて情報を発信することで、地域や保護者との接点を増やし、認知度を高めていきたいと思っています。 また、専門学校の非常勤講師として、発達学や作業療法治療学(発達)を担当しています。依頼に応じて講演会や座談会などの講師も務めています。

創業して良かったことは何ですか?

乳幼児健診では発見されない子どもの早期支援・早期療育、病院打ち切り後の長期的なフォローなど、グレーゾーンも含めた多くの子どもに関われることです。利用される方との距離が近い分、やりがいも大きいです。以前の職場では就学前の子どもと関わることが多かったのですが、ここでは小・中学生も受け入れています。今までは関われなかった思春期以降における支援の知見を広げることで、年齢に応じた切れ目のないサポートを提供したいと思っています。

今後の目標を教えてください。

利用してくださるお子さんや親御さんとの信頼獲得に力を入れ、継続的な利用につなげていきたいと思っています。近年、発達障がいに対する意識が高まってきていますが、専門家によるバックアップ体制は十分とは言い切れません。各関係機関と情報を共有しながら、セカンドオピニオンのような形で発達の相談・支援を行いたいと思っています。将来の夢は、高いスキルを持つ後進を育成して、長門市や萩市など、作業療法士が少ない地域にも介入し、地域の子どもやそのご家族が安心して生活を送れるような環境を整えることです。また、アメリカで導入されている学校作業療法士のように、教育現場に必要とされる機会が増えてくることも予想されます。山口県作業療法士会などを通して教育委員会にもアプローチをかけていきたいと思います。

最後に、創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

創業を考えたときの一番のネックは、運営や設備投資に関する資金面についてだと思います。こうしたときに役立つのが、各自治体や支援機関による補助金です。補助金を「創業に挑戦するための切符」と捉え、大いに活用されることをおすすめします。さまざまな不安があるとは思いますが、ぜひ勇気をもってチャレンジしてみてください!