創業者紹介

ドッグケアハウス伝DEN

郡 真美

Mami Kori

一頭でも多くの犬の命を救いたい。
高齢化社会の中で行き場を失った
犬たちをケアする老犬ホームを創業。

郡 真美49years old

Mami Kori

美祢市出身。京都、東京、海外、山口でいろんな職に携わりながら動物愛護活動に従事し、犬たちとの関わりの中で老犬ホームの立ち上げを夢見るように。知人や友人に話したところ、ちょうどいい物件が見つかり、後押しされる形で「ドッグケアハウス伝(DEN)」を創業。
 
ドッグケアハウス伝(DEN)
創業:2017年4月
住所:山口市下小鯖4078-20
HP:http://dog-care-house-den.com

昔から犬が大好きだった郡真美さんは、仕事と並行しながら十数年にわたり、動物愛護活動に参加していました。ここ数年、人と犬双方の高齢化によって行き場を失ってしまう犬が増加している問題について考えるようになり、次第に「いつか老犬ホームを立ち上げたい」と思うようになりました。友人や知人にその構想を話したところ、あっという間に共感の輪が広がっていき、気がつけば物件を紹介されるまでに。たくさんの人に支えられて夢を実現した郡さんに、その経緯や現在の状況、これからの目標などについてお聞きしました。

これまでの経歴を教えてください。

美祢市内の高校を卒業後、京都の短大、専門学校に進学しました。社会人となり京都や東京、海外でさまざまな仕事を経験した後、山口にUターン。文化施設の立ち上げに携わったり、公文学習塾で子どもたちに勉強を教えたりと、現在の業務内容とは全くかけ離れた経歴をたどってきましたが、犬が好きだという気持ちはずっと変わりませんでした。実は十数年間、個人だったり、地域だったり、全国だったりと規模も形態もさまざまでしたが、仕事と並行しながら動物愛護活動に取り組んでいました。

創業を決めたきっかけは何だったのですか?

動物愛護活動の一環として、保健所に入っている犬たちに新しい里親を探して引き渡すという活動をしていたのですが、最近は人間と犬双方の高齢化が原因で保健所にやってくる犬たちが目立つようになりました。高齢になられた飼い主さんが介護施設等に入ることになって飼えなくなったり、亡くなられてしまって犬だけが置き去りになってしまったり…。また、医療や飼育環境の変化によりペットの平均寿命も延びてきたことで、犬と人間による老老介護も増え、十分な面倒が見られなくなって手放す方も増えてきています。年老いた犬は里親も見つかりづらく、最悪の場合は殺処分されることもあります。そこで私は、「ひとつの受け皿として老犬ホームができたらいいな」「老犬介護で悩んでいる方の力になれたらいいな」と、知人や友人にあくまで理想として話していました。するとある時、知人から「ぴったりの物件があるよ!」と言われて…。実現するならばもっと時間をかけて計画し、慎重に行うべきだとはわかっていたのですが、私の考えに賛同してくださる方や協力したいとおっしゃってくださる方もたくさん現われて、本当に急な話でしたが「もうこのタイミングでやるしかない!」と(笑)。ですから、自ら創業を決めたというより、周りが推し進めてくれた、といった方が正しいですね。

創業前にどのような準備をされたのですか?

まず物件を見に行ったのですが、天井と床には穴が空いて、周囲には木が鬱蒼と生い茂っていて…、まるでお化け屋敷のようでした(笑)。でも立地と大きさは理想的でしたし、近隣のみなさんも老犬ハウスに対して理解をしてくださっていたので、この場所での創業を決めました。しかし、急な展開だったので自己資金はほとんどありませんでした。年金担保融資制度の利用と知人からの借入で、基礎部分の改修まではなんとか目途がたったのですが、建物の改修には全然費用が足りませんでした…。リサイクル品を探しながら、3年くらいかけてDIYでコツコツと準備を進めていこうと思っていたところ、友人や知人、里親さんなど、たくさんの方々が想いに共感してくださって、ボランティアで壁の塗装や床の張り替えなどを手伝ってくださいました。また、改築をお願いした工務店さんは、水回りなどの機器を扱うメーカーさんへの協力依頼だけでなく、「経営についてきちんと学んだ方がいい」と、山口商工会議所が主催する創業塾をご紹介してくださいました(笑)。みなさんの優しさが本当に嬉しかったですね。

創業塾ではどのようなことを学ばれましたか?

すでに物件も決まり、工事も進んでいる段階での参加でしたので、まず講師の先生に「この事業は本当に大丈夫?」と言われました。なぜなら、私はこの時に初めて事業計画というものの存在を知ったからです(笑)。そこからマーケティング、事業計画書、資金繰りなど、本当に初歩の初歩から教えていただきました。最も感謝しているのは、「必ず必要としている方がいるこの事業は継続していかないと意味がない。そのために利益が得られる事業にしないといけない」という現実に向き合えたことです。これまでボランティアでやってきたことを商売にするわけですから、正直、迷いや葛藤はありました。でも、具体的な数字に落とし込む作業をすることで、徐々に気持ちの整理ができました。商工会議所の方と創業塾の講師からフォローを受けながら事業計画書を作り上げた時には、気持ちは固まっていました。「ずっと続けられる事業にしよう」と。

創業してすぐの状況はいかがでしたか?

全国の老犬ホームを統括するサイトに登録したり、近隣の動物病院やペット関係の店舗にチラシを置かせていただいたりしました。また、新聞にも大きく取り上げていただいたこともありますが、思ったような反応はありませんでしたね…。しかし、そのうちに口コミやSNSで情報を得た方たちが利用してくださるようになりました。寝たきりの犬、夜中に徘徊する犬、夜泣きが酷い犬…など。当時はスタッフを雇う金銭的な余裕もなかったので、立ち上げ準備の段階からサポートしてくれた愛護活動仲間の協力を得ながら、無我夢中で犬たちのお世話をしましたね。家に帰れない状態が数ヶ月続いたこともあります。想像以上に大変でしたが、それでも困っている方は潜在的にいらっしゃって、微力ながら私たちはお役に立てているんだと実感できました。そして、この事業を続けていこうと改めて胸に誓いました。

創業から2年が経ち、現在の状況はいかがですか?

現在、常時お預かりしているのは7頭です。短期でのホテル利用も順調に数を延ばしています。また、月に1〜2回トリマーさんを招いてトリミングもしているのですが、そちらの利用も増えてきました。創業当初は山口市内の方がほとんどでしたが、最近は岩国や下関など、遠方にお住まいの方の利用も多くなってきています。老犬ホームはまだ山口県内に3〜4施設しかなく、山口市内にいたってはここだけです。わざわざ遠方からも来られる方がいらっしゃるということは、存在を知ってもらえさえすれば、利用者数はもっと増えていくのではと予測しています。正式にスタッフも雇い、お給料も払えていますが、まだまだ安定しているとは言えませんね。

創業してみて大変だと感じることはありますか?

唯一辛いと感じるのは、関わってきた犬たちとのお別れの時ですね。命あるものですから、寿命が尽きる時は必ずきます。でもこればっかりは何度経験しても慣れることはありません。関わる時間が長ければ長いほど家族のような存在になってきますので、その分悲しみや寂しさも大きくなります。ただ、それでも仕事はあるので落ち込んでばかりもいられません。犬との関わりによって生まれる悲しみですが、その悲しみを癒してくれるのもまた、犬との関わりなんですよね…。こうしてどうにか立ち直ってまた前が向けるのは、いつも犬たちがいてくれるからです。だんだんと衰えていく犬たちを見守る日々は、覚悟はしていましたがやっぱり壮絶です…。

創業して良かったことはありますか?

やっぱり飼い主さんや犬たちのお役に立てていることですね。飼い主さんの中には、最後まで見られなかったことに罪悪感を抱き、泣きながら預けに来られる方もいらっしゃいます。でも、飼い主さんは犬を家族と思っているからこそ、ここに連れて来られるんだと思います。そんな飼い主さんたちには、私たちは「ワンちゃんのためにリフレッシュしましょう」「ワンちゃんの合宿ですよ」といった具合にさまざまな言葉をかけながら、その罪悪感を少しでも取り除けるように接しています。犬の介護も人間の介護と全く同じで、つきっきりの状態ではストレスになってしまったり、そのストレスが伝わって犬も不安定になったりしてしまいます。時に思い切って距離を取ることはとても大事なことです。つきっきりの状態から解放されて笑顔になった飼い主さんの顔を見ると、犬たちはその笑顔に安心します。また、犬も仲間たちに触発されて、これまで立つこともできなかったのに歩けるようになったり、食が細かったのによく食べるようになったりと、一緒に過ごすことで相乗効果も生まれてきます。人も犬も笑顔や元気を取り戻してくれる姿を見るたびに、この仕事の一番のやりがいを感じますね。

今後の目標を教えてください。

老犬ホームの存在を、もっと多くの人に知ってもらうことが、現在の一番の目標ですね。利用者の方に「もっと早く知りたかった」と言われることが多いので、知っていただくことができれば、たくさんの方のお力になれると思います。今後は、必要な方の元に必要な情報を届けるためにホームページをさらに充実させたり、SNSを使った発信に力を入れたりしていきたいですね。それとあわせて、ここに犬を連れて来るのが難しいご年配の方や、立てなくなった犬を車に乗せるのが難しい方々のところに私が出向いてご相談を受けたり、介助を手伝ったりと、もっと積極的に外に出て活動することも考えています。また、常に掲げている目標は、困っている人の役に立つこと、犬を救うこと、そして社会に貢献することです。そのためには事業を継続させることが大前提ですので、経営を安定させることが必須となります。認知度を高めることで利用者が増え、売上がアップし、それが老犬ホームの存続につながり、困った人の助けになる…、このループが途絶えないよう、これからも全力で取り組んでいきたいですね。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

まだ夢がしっかりと固まっていなくても、やりたいと思ったことはとにかく言葉にして、誰かに伝えることをおすすめします。そうすることで応援してくださる人が現れたり、異業種の方からアドバイスをいただけたりしますし、何より自分の考えや気持ちが整理されてまとまっていきます。私がそうだったように、口に出すことが夢を叶える近道なのだと思います。もし失敗しても修正すればいいだけです。失敗を乗り越えるたびにまた一つ成長し、進んだ先にはこれまでとは違う世界が広がっていきます。長い目で見れば、失敗すること全てが悪いことではありません。ぜひ思い切って、まずは言葉にしてみてください!