創業者紹介

子たぬきのパン

楳澤 しのぶ

Shinobu Umezawa

もっともっと鹿野に人を呼び込みたい!
生まれ育ったまちを元気にするために
Uターンして天然酵母パンの店を創業。

楳澤 しのぶ41years old

Shinobu Umezawa

周南市出身。福岡の調理専門学校を卒業後、結婚・出産を経て夫とともにレストランを創業。10年経営した後、2年の準備期間を終えて「パンをきっかけに鹿野に人を呼び込みたい」と地元鹿野にUターンし「子たぬきのパン」を創業。
 
子たぬきのパン
創業:2018年5月
住所:周南市鹿野1260
HP:https://kotanukinopan.wixsite.com/kotanukinopan

18歳の春、調理師専門学校への入学を機に福岡へ移住した楳澤しのぶさんは、結婚・出産を経て、同じく料理人である夫とともにレストランを創業。順調にお客様が増えて10年が経とうとする頃、ただ忙しく過ぎる日々に自分が本当にやりたかった「おいしいものを伝えること」ができていない現状に悩み始めました。そんな時、山口県産小麦粉「せときらら」を使ったパンのおいしさに出会い、「この小麦粉で作ったパンがあれば、私が鹿野で味わってきた本当のおいしさをお客様に伝えられる!」と思うように。その後単身でUターンし、2018年5月に「子たぬきのパン」を創業。「鹿野を元気にしよう!」と日々奔走する楳澤さんに、創業までの道のりや現在の状況、これからの目標などについてお聞きしました。

これまでの経歴を教えてください。

周南市鹿野で生まれ育ち、18歳の春に調理師専門学校へ入るために福岡へ行きました。卒業後はそのまま福岡市内の飲食店に就職。結婚・出産をしてからも、ずっと料理の仕事は続けていました。そして私が27歳の時に、同じく料理人をしていた夫が独立して店を出すことになり、そのサポートをすることに。カレーをメインにしたレストランを夫婦二人で10年ほど経営しましたが、体力的なことや店の方針など、将来について考えた結果、思い切って閉店することにしました。その後単身でUターンをして「子たぬきのパン」を創業して、現在に至ります。

なぜUターンして創業しようと思ったのですか?

福岡のレストランは6坪のこぢんまりとした店でしたが、毎日買い出し、仕込み、後片付けをして、家には寝に帰るだけのような忙しさでした。忙しいのは大変ありがたいことだったのですが、仕事に追われるうちに料理に対する探究心やワクワク感、お客様にもっと喜んでもらいたい!といった意欲が、だんだんと薄れていきました。それと同時に「私が鹿野で味わってきた本当のおいしさをお客様にお伝えできていない」と思うようになり、罪悪感を抱くようになっていました。独立して10年目を迎える頃には、本当に自分がやりたいことを実現するにはどこかでリセットするべきだと真剣に考えるようになって…。そんな時、知り合いから依頼されて山口県産小麦粉「せときらら」を使ってパンを焼いてみたところ、その味にビックリしました。 副原材料を混ぜても、小麦本来の香りや風味が全然失われないんです! その時「この小麦粉で焼いたパンがあれば、私が知っている鹿野のおいしいものをお伝えできる!」と確信しました。せっかくなら、鹿野の水や空気のおいしさも一緒に発信したいと思い、思い切ってレストランを閉店し、Uターンしてパン店を創業することを決意しました。当時、私より7つ年上の夫も体力への不安からレストラン経営を続けるべきかどうか迷っていたので、二人にとってベストな選択ができたと思っています。

創業したいと伝えたときのご家族の反応はいかがでしたか?

夫はすぐに賛成してくれました。というより、反対したところで聞かないだろうと思ったそうです(笑)。その後、私の両親も交えて家族会議を開き、高校2年生だった息子の受験が終わった後にUターンすることになりました。それまでの期間は、パン店で働きながら、開業するために必要な知識と技術を修得しました。それと同時に、山口県産の小麦粉を育てながら、その育てた小麦粉でパンを作る、山口県の「三丘パン研究会」に通ったり、山口大学の公開講座を受講して山口県産の小麦粉がもつ特性について学んだりしました。

創業にあたって、どこかで学んだり、指導を受けられたりしましたか?

10年間のレストラン経営で「数字を整えないと、経営も整わない」ということを痛感したので、経営の基礎を学ぶために、徳山商工会議所が主催するしゅうなん創業カレッジに参加しました。実は福岡でレストランを始めた時は、「おいしい料理さえ出していればお客様が来る」くらいの感覚で、経営についてあまり深く考えていませんでした。そんな感じで経営していたので、運転資金はわずか半年で底をついてしまって…。原因は客単価、客層、立地条件、回転率など、全てにおいて読みが甘かったこと、つまり事業計画が全くできていなかったことにあります。ランチをセットにして客単価を上げたり、改装をして席数を増やしたりと、しばらくはとにかくドタバタ続きでしたね。

しゅうなん創業カレッジで学んで良かったことは何ですか?

数字について学べたことももちろんですが、何より自分の考えていることを事業計画書に落とし込むという作業を経験できたことが一番良かったことです。自分の中だけのふわっとしたものが、徐々に整理されて一つひとつ現実的になっていき、さまざまなことに道筋を立てることができました。事業計画書を作成することは、第三者に事業について説明するためだけでなく、事業の成功確度を高めるためにも必要なんだなと痛感しました。また、創業を目指す同士や金融機関の方など、人脈が築けたことも良かったことでしたね。

創業資金はどのようにして準備されましたか?

自己資金と借入です。金融機関から借入する時はしゅうなん創業カレッジで作成した事業計画書が大変役に立ちました。創業の準備で一番お金がかかったのは古民家の改装です。心地の良い空間づくりには、とてもこだわりましたね。あとは、パンの命ともいえるオーブンなどの機材です。当店は、山口県産の木材を燃料としたペレットを使うペレット窯を完備しています。それは「原料だけじゃなく、燃料も地産地消したい!」という私の想いにメーカーさんが賛同して開発してくださったものなんです! 窯を購入する際は、山口県と周南市と信用金庫による助成制度「中山間移住創業マルシェ事業」を活用しました。実はこの助成制度を知ったのは、しゅうなん創業カレッジの最後に行う事業計画発表会の際に金融機関の方から直接声をかけていただいたことにあります。ここにもしゅうなん創業カレッジに参加したからこそのメリットがありましたね。

創業してすぐの状況はいかがでしたか?

2018年5月10日がグランドオープンでしたが、実際には3月からプレオープンとして営業を始め、製造や接客面において自分なりに練習を重ねていきました。SNSを使ってこまめに情報発信しながら徐々に慣れていったので、グランドオープンを迎える頃には「これなら大丈夫!」という自信はあったのですが、実際にオープンしてみると予想していたよりもかなり大変でした。ちょうどその頃、周辺に新しいお店が立て続けにオープンして、鹿野エリアが注目されていた影響も大きかったですね。本当は、じわじわとお店の認知度を上げていきたかったんですけど(笑)。開店と同時にお客様がなだれ込むように入って来られたり、遠方から来てくださったお客様に「もう売り切れ? わざわざ遠くから来たのに」と言われたりして、精神的に落ち込んでしまうこともありました。受け入れ態勢が整っていないと、かえって信用を失ってしまう恐れもあるので、メディアにあまり露出しないようにするなど対策はしていたのですが…。これからお店をオープンされる方には、慎重にプロモーションされることをおススメしたいですね。

現在の状況はいかがですか?

多少の波はありますが、ほぼ事業計画書の数字通りです。オープン時のバタバタ期を経験したことをきっかけに、ブログに「私はこの店を物とお金を交換するだけの場所にしたくない。パンを通じてお客様と私、食材を作ってくださる農家の方が心を通わせる場所にしたい」という自分の想いを綴らせていただきました。その結果、嬉しいことに話題性だけで来られる一時的なお客様ではなく、この店のファンになって来てくださるお客様が増えていきました。そういったお客様はどんなに山の中にあろうとも、どんなに遠くにあろうとも通ってくださいます。もともと、たくさんは作れないので、私の作るパンの良さを理解してくださる方、私の考えに共感してくださる方に来ていただくためにこの場所を選んだので戦略通りではありますね。今はお客様と私の間に私が理想としていた「いい関係」が築けているように感じます。

創業して良かったことはありますか?

私のパンがきっかけで、鹿野にたくさんの人が足を運んでくださるようになったことです。遠くからわざわざ足を運んでくださったお客様から「ここは本当にいい場所ですね。また来ますね!」と言われるたびに嬉しさでいっぱいになります。私にとっての成功は、お金をいっぱい稼ぐことではなく、鹿野の地に足を運んでもらい、鹿野で育ったおいしい食べ物を味わってもらい、その結果「ありがとう」と言ってもらえることです。おかげさまで、福岡のレストラン時代には薄れてしまっていた、喜びにあふれた日々を過ごせています。

今後の目標を教えてください。

2階に鹿野の風景を楽しみながらパンを味わえるイートインスペースを設けているのですが、あまり利用してもらえていません…。現在、店舗2階の1室をギャラリーに改装しているのですが、ギャラリーが完成したら、田舎では見られない作品の展示会をしたり、ワークショップを開催したり、ライブをしたりして、少しでも長く心地よい時間を過ごしてもらえたらいいなと思っています。そして将来、ここで過ごした時間を思い出していただいて、「また行ってみたいな」「あそこに住んでみたいな」と思ってもらえたらすごく嬉しいですね。もう一つは私のような移住創業者を増やすために成功モデルになることです。私の中での成功は、売上だけでなく「楳澤さん、いつも楽しそうに仕事してるね!」と思ってもらえることです。私の姿を見て、鹿野で創業してみたいと思ってもらうためにも絶対に失敗できません。そのプレッシャーをエネルギーに変えて頑張っていきたいですね(笑)。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

勢いだけで安易に創業せず、しっかりと学んだ上で事業計画を立てることをおススメします。事業計画書を作成することで、自分のやりたいことが明確になりますよ。それと、「安いものをたくさん売る」という商売は、これからの時代だんだん通用しなくなっていくと思います。いかに価値あるものを生み出し、その価値を理解してもらい、それに相応しい値段で提供できるかが肝だと思います。また今回、ギャラリーを開設するにあたり、クラウドファンディングを利用してみたのですが、資金集めはもちろんのこと、事業のアピールやお店のファン獲得にもつながるので、利用できる機会があれば、創業ツールの一つとして活用してみるといいと思います!