創業者紹介

茶懐石料理 典座

村田 典敬

Noritaka Murata

「いつか茶道で身を立てる」という
長年の夢を実現させたのは50代。
やりたいことができる充実の日々に感謝。

村田 典敬55years old

Noritaka Murata

岩国市生まれ。高校生の頃に出会った茶道に魅せられ、京都の茶道専門学校へ進学。卒業後は、茶道で身を立てることを目標とし、約30年会社員をしながら創業資金を準備。専門学校時代に学んだ懐石料理も事業に取り入れ、本格的な茶室と茶庭を完備した「典座」を創業。
 
茶懐石料理 典座
創業:2016年6月
住所:岩国市今津町3-13-35
HP:なし

高校生の頃に出会った茶道を追究するために京都の専門学校に進学した村田典敬さん。卒業後に、裏千家の家元のもとで茶の湯の精神についてさらに深く学んだことで、茶道文化を通じて「人との交流を図りたい。日本文化を体感してもらえる空間を作りたい」という思いを強くしました。そんな村田さんが夢の実現に向かって一歩を踏み出したのは50代になってから。2016年に、本格的な茶室と茶庭を完備した「典座」を創業しました。茶道の指導だけでなく、懐石料理や精進料理、手打ちそばを振舞いながら日本文化の発信に奔走する村田さんに、創業を決めたきっかけや創業までの準備、現在の状況や今後の目標についてお聞きしました。

これまでの経歴を教えてください。

岩国市内の商業高校を卒業後、京都の茶道専門学校に進学しました。高校生の頃に通っていた塾の先生の奥さまが茶道の講師をされていて、「茶道っていい世界だな」と思ったのが進学先を決めた理由です。専門学校を卒業してからは、裏千家茶道の伝授と普及を主な事業とする京都の「裏千家今日庵」で約5年働きました。茶道の教授はもちろんのこと、家元で行われる行事の準備や片付け、撮影アシスタント、拝観案内など、さまざまな体験をさせていただきました。「裏千家今日庵」を離れてからは、税理士事務所や建築関連会社、医療法人など、多種多様な会社で会社員として働きながら、将来の創業に向けて準備をしてきました。

創業したいと思った理由を教えてください。

「裏千家今日庵」で働いていた頃から、すでに「いつか茶道で身を立てよう」と思っていました。具体的な構想はまだ固まっていませんでしたが、いずれは山口に帰って講師として茶道を教えるんだろうなと漠然と思っていました。もちろんそれだけでなく、山口にいながら京都を感じられる空間を作り、そこで日本文化を実際に体験してもらい、その素晴らしさを伝えていきたいという夢も描いていました。ただ、その頃は単純に茶道を軸に置いた展開を考えていたので、まさか懐石料理や手打ちそばを提供するお店を開くことになるとは、全く想像していませんでしたね(笑)。

なぜ現在のような事業内容になったのですか?

本格的な茶室で講師をやりたいという夢がありましたので、とりあえず会社員をしながら資金を貯めることにしました。30代になった頃、少しずつでも茶道講師への転向を考えなければと思って周りの状況を確認したところ、自分が予想していた以上に茶道人口が減少していたことに気がつきました。ある程度の減少は覚悟していたのですが、思っていた以上だったので茶道講師でやっていくことにかなりの不安を覚えましたね。そこで、講師業だけでやっていくのではなく、学生時代に学んだ懐石料理を事業に取り入れることを思いつきました。あまり知られてはいませんが、懐石料理を食べて、お酒をいただいて、最後にお茶を飲むというのが正式なお茶の流れですので、それを体験していただけるのもいいことだなと。そういった理由から、現在の茶道部門、飲食部門、日本文化部門の3つを柱とする事業内容に至りました。

夢だった創業の実現に踏み切ったきっかけは何だったのですか?

本当は40代で創業しようと思っていましたが、子どもたちとの時間を大切にしたかったこと、そして、まだ十分な創業資金がなかったので実現には至りませんでした。50代で創業を決意した一番大きな理由は、定年してからの創業では、私が茶道を通じて学んだことを実現するには時間が足りないと思ったからです。なので、もうこのタイミングは逃せないと思い、退職を決断し、創業の準備を始めました。ちょうどその頃、岩国商工会議所が主催する創業セミナーが開催されることを知り、参加することにしました。

創業セミナーでのどんな学びが役立ちましたか?

マーケティングや事業計画書の作り方、それに連動する試算表の作り方など、創業・経営に関するさまざまなノウハウなどを教えてもらいました。これらの知識も大変役に立ちましたが、私にとっての一番の収穫は「決断できた」ことでした。それまでは、会社員時代にすでに完成させていた茶室でこぢんまりとやっていこうと思っていたのですが、セミナーの講師に「もっと大きくやればいいじゃん! できるよ!」と乗せられて…(笑)。セミナーの最後に行われるプレゼン大会に来られていた信用保証協会の方に「面白い事業なのでそれなりの予算をかけてやった方がいい」と声をかけていただいたのも大きかったですね。創業セミナーに参加したことで、事業計画の実現に必要な本格的な厨房機器を揃え、揺るぎない事業として展開していくことを決意しました。

創業資金はどのようにして準備されましたか?

創業セミナーをきっかけに事業の方向性を大きく変えることにしたので、当初の予定を変更して金融機関から借入をすることにしました。その他には、岩国市の制度融資や創業支援補助金も利用させていただきました。借入した資金は、厨房を作ったり、お客さまをおもてなしする空間を整えたりと、主に建物の改修に活用しました。京都の雰囲気をできるだけ再現したかったので、施工は宮大工の経験を持っていらっしゃる地元の工務店にお願いしました。

創業当時の状況はいかがでしたか?

オープン前に約100名をお招きして、レセプションパーティーを開きました。私一人で懐石料理をお出しすることは無理なので、当日は特別に蕎麦職人さん2人にお越しいただき、手打ち蕎麦をお出ししました。この蕎麦が大好評だったこともあり、レセプションパーティーは予想を超える大盛況でしたね。ところが、その蕎麦が理由でオープン後の計画を大幅に変更することになってしまいました。当初の予定では、オープンしてから2ヶ月くらいは喫茶のみの営業にして、慣れてきてから懐石料理をお出しするという計画だったのですが、「レセプションパーティーで食べたお蕎麦はないの?」というお問合せを結構いただいて(笑)。それで予定を急遽変更して、蕎麦打ち道場に修行に行きました。ドタバタでしたが、結果的には大成功でしたね。懐石料理というとどうしても高いイメージがあるので、蕎麦を提供することで少し敷居が下がり、来店しやすいお店になったように思います。

現在の状況はいかがですか?

お昼3組、夜3組の完全予約制で営業しています。「隠れ家的なお店」がコンセプトなので、大々的な宣伝はせず、口コミ効果を狙ってSNSで情報発信をしています。その他に、山口県よろず支援拠点に相談してホームページ開設の準備を進めているところです。今のところスタッフは雇わず、大人数での予約が入った時には、家族に食器洗いなどを手伝ってもらっています。一人で大変なときもありますが、売上が安定するまでは、このスタイルでしばらくやっていこうと思っています。

今後の目標を教えてください。

まずは経営を安定させることですね。回転率を上げてもっと収益を上げたいという希望はありませんが、料理に関わる作業をある程度分担して、私は茶道部門と文化部門にもっと力を入れていきたいと考えています。飲食部門は順調なのですが、茶道部門や文化部門の売上は、まだ計画の3分の1程度なんです…。ただ、茶道部門や文化部門の売上を伸ばすために私が精力的に動くと、今度は料理をする時間がなくなるという悪循環が生じてしまいます。なので、将来的には一緒にやってくれる料理人を探す必要があるなとも思っています。そしてお茶会はもちろんのこと、華道の先生をお招きして教室を開いたり、海外から来られる方に向けて茶道体験や華道体験を実施したりするなどして、もっと多くの人に日本文化についての理解と関心を高めていければと思います。海外の方が茶道や華道の体験中、日本文化に通じた通訳の方にテレビ電話で解説してもらう構想もすでにあります。そしてゆくゆくは、菓子や惣菜の販売もできればいいですね。もうやりたいことがたくさんありすぎて困っています(笑)

創業して良かったことはありますか?

自分のペースで仕事ができることですね。売上へのプレッシャーはありますが、人に対するストレスは軽減されました。完全予約制にしているので、平日に自由な時間が増えたことも良かったことですね。近いうちに予約を調整して、高野山へ精進料理を習いに行こうと思っています。それと、創業したことでお客さまだけでなく、岩国商工会議所の方やセミナー講師、セミナーを一緒に受けた同期、地域の方々など人脈が広がったことも良かったですね。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

私は、資金面での不安や子育てといった理由でなかなか決心ができず、50歳での創業となってしまいましたが、一度きりの人生なので、どうせやるならもっと早くから挑戦すべきだったと反省しています。なので、本気でやりたいのであれば、退路を断つくらいの気持ちで早めに準備に取りかかることをおススメしたいですね。今すぐに創業できないという方も、何が必要なのかを思い描きながら少しずつ準備を進めておけば、いざ創業をしようと思ったときに、大きな負担を強いられることもありません。また、市町村が行なっている創業セミナーに参加するのもいいと思います。自分の夢が本当に実現可能なプランなのか、自分に足りないことは何なのかを気づくことができるいい機会になると思います。そして、事業開始してから最低でも2年間は無収入でも耐えられる自己資金を準備しておけると理想的ですね。そして、もしも事業が上手くいかなかった場合は「撤収する」という選択肢も持っておくべきだと思います。判断に悩んだり、決断が難しいときには、商工会議所や金融機関などの第三者の意見を聞いてみるといいと思います。真剣に取り組んでいれば、どんな状況になっても応援してくれる人は必ずいらっしゃいます。ぜひ頑張ってください!