創業者紹介

岡の辻にしむら

西村 結花

Yuka Nishimura

着物を軸にした和の美で
女性の“キレイ”を応援したい。

西村 結花

Yuka Nishimura

宮城県仙台市生まれ。独身時代はアパレル販売員、秘書、歌手、フェイシャルエステティシャンなどのさまざまな仕事を経験した後、結婚を機に福岡市へ移住。その1年後、夫が家業の呉服店を継ぐことになり宇部市へ。子育ての傍ら、前結び宗家 きの和装学苑師範の資格を取得し、着付け講師として活動を続ける。2017年6月、着物のレンタルと着付け教室を主軸とする「岡の辻にしむら」をオープン。
 
岡の辻にしむら
創業:2017年6月
住所:宇部市西岐波4769-1
HP:http://okanotsuji.wixsite.com/kimono

子育てをしながら資格を取得し、着付け講師として活動してきた西村結花さん。「もっと気軽に着物を楽しんでほしい」との思いから、2017年6月に、着物のレンタル店「岡の辻にしむら」をオープンしました。当初は創業を考えていなかったという西村さんに、創業を決意した理由や創業までの準備、現在の状況などについてお聞きしました。

創業される前は何をされていたのですか?

宮城県仙台市で、アパレル販売員、秘書、歌手、フェイシャルエステティシャンなど、様々な仕事を経験しました。結婚を機に福岡市に移住したのですが、夫が実家の呉服店を継ぐことになって、わずか1年で宇部市に引っ越しました。出産をしてしばらくは、専業主婦をしながら、時々、義母の着付け教室の生徒役としてお手伝いをしていました。実は結婚する前から、着付け教室に通うほど着物が大好きで…。手伝っているうちに、自然と資格を取りたいという気持ちが芽生えてきました。それで2004年に着付け講師の資格を取得し、それから週に3日程度、義母に同行して着付け教室の講師をするようになりました。

どうして創業しようと思われたのですか?

義父母の勧めで宇部商工会議所が主催する起業塾に参加したことが始まりでした。といっても、そのときは起業するつもりはなく、創業の基礎知識を学ぶことで、父母や夫の助けになればと思っていました。経営に関して本格的に勉強したことはなかったので、学ぶこと全てが新鮮でしたね。学ぶうちに、どうせやるなら最後まできちんとやり遂げようと思い、事業計画書を作成し、ビジネスプランコンテストにも参加しました。そこで賞をいただき、周りから「せっかく賞をもらったのだからやってみたら?」と背中を押されたことで、創業に気持ちが傾いていきました。それに、審査をしてくださった先生から着物需要の減少を指摘されたことが悔しくて、「絶対に成功させてみせる!」と逆に気持ちに火がつきましたね(笑)。

そのほかに起業塾で得たことは何ですか?

特に勉強になったのが、数字の考え方です。最初は、このくらいなら達成できそうかなという売上目標を掲げていたのですが、中小企業診断士の先生から「もっと夢をみなさい」と言われて(笑)、見直すことにしました。そして、掲げた金額を達成するためにはどうすればいいのかという具体的な道筋を考えていきました。もう一つ勉強になったのが、どのようにして他社と差別化していくのかということです。大手の呉服店と同じことをしていては到底太刀打ちできません。そこで辿り着いたのが、「ファッションの一部としての着物」というコンセプトです。着物を着ることの敷居を低くしたい。もっとたくさんの人に気軽に楽しんでほしい。そんな思いから、着物の販売ではなく、着物のレンタルと着付け教室を主軸にすることにしました。

創業のためにどんな準備をされましたか?

まず用意したのが着物です。以前から夫について京都の卸問屋に仕入れに出掛けており、人脈ができていたので、スムーズに揃えることができました。それに義父母から着物の援助もあったので助かりました。店舗は自宅の1階を活用しています。家を建てる時に、呉服店の店舗としても使えるようにと玄関フロアと1階の和室を少し広く作っていたのですが、その目論見を崩してしまいましたね(笑)。創業資金は、銀行からの借入と自己資金が半々です。基準利率より優遇される宇部市事業資金融資制度も活用しました。融資の申請は3月に行ったのですが、実際に入金されたのは開業ギリギリ(笑)。起業しようと心に決めてから4カ月間と準備期間が短かったのですが、私にとってはそのくらいのスピード感がちょうど良かったように思います。道のりが長いと熱が冷めて創業には至らなかったかもしれません。

創業する前にどんなことを想定されましたか?

宇部市の商工振興課に相談に行ったときに、「お客様が来られない日はどうするのですか?」と指摘を受けたことで、売上目標を本当に達成できるのだろうかと不安になりました。そこで、思いついたのが和裁や和の小物づくりなど、「日本らしさ」をテーマにしたワークショップです。多方面で活躍する先生方をお招きして、さまざまな企画を用意することにしました。また、起業と同時に、独身時代に行っていた化粧品の販売とフェイスエステも復活させることにしました。仕事も遊びもアクティブに活動してきたタイプだったのに、子どもが生まれてからは、自分に手をかけることがめっきり少なくなって、これは本来の自分ではないなと感じたことがありました。私と同じように感じている女性は絶対に少なくないはず。そんなママたちが本来の美しさを取り戻せるように、メイクやネイル、ヘアアレンジ講座などを通じて、女性の“キレイ”を応援していこうと考えました。

オープンの告知や宣伝活動はされたのですか?

まず、Facebookで起業することを公言して、それから「京都に仕入れに来ています」や「什器が入りました」など、創業するまでの情報を積極的に発信するようにしました。また、オープンの1カ月前には、市内で行われたマルシェに参加して、自作したリーフレットも配布しました。その結果、創業前からたくさんの方に問い合わせをいただくことができました。

ご家族の反応はいかがでしたか?

最初は、実家の呉服店の2号店として始めることも考えたのですが、自分のやりたいことを貫くためには、やはり個別で創業した方がいいだろうと。夫や義父母にとっては誤算だったかもしれませんね(笑)。でも今は、私の挑戦を全面的に応援してくれています。こうして今、自分の好きなことを好きなようにできているのは、周りの理解と協力があってこそ。家族には心から感謝しています。

創業後、現在の状況はいかがですか?

現在、シーズンごとに京都で着物を仕入れ、貸し出しはもちろん、着付け、着用後のクリーニングまでのサービスを提供しています。着付け教室は月に20日程度、その間にワークショップやイベントを企画したり、出張着付けに出向いたりと、想像していた以上に忙しい毎日を送っています。七五三や卒業式・入学式、イベントの多い夏などのシーズンは、レンタルや着付けの依頼が集中します。全て私一人で行っているので切り盛りするのは大変ですが、その分やりがいも感じています。利用者のおよそ7割が宇部市の方ですが、山口市や山陽小野田市、美祢市、下関市から来られるお客様もいらっしゃいます。リピーターも増えているので、確かな手応えを感じています。

創業して良かったことは何ですか?

仕事を通じていろいろな人と出会えたことです。お客様から「嬉しかったです」「また予約したいです」といった反応をいただくと、こちらも嬉しくなります。有り難いことに口コミでお客様が広がり、既に今年の七五三のご予約も入っている状況です。思いのほか20代〜30代と若い世代にも利用していただいているのも嬉しいですね。

今後の目標を教えてください。

レンタルで気軽にお試しいただいて「着物っていいな」と感じていただければ、着物の需要拡大につながるはず。「着物を買いたい」と思っていただいたときに、実家の呉服店を紹介することもできるので、いい流れができるのではないかと期待しています。また、後進の育成にも力を注ぎ、着付け講師として独立・開業ができるようなシステムを構築していきたいと思っています。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

起業して人様からお金をいただく以上は、まずプロ意識をもつことが大切ではないでしょうか。お客様から何を聞かれてもきちんと答えられるように、業務に関するスキルを上げることはもちろん、事業を継続させるための経営スキルを身につけることが必要です。何から始めればいいのか分からないという方は、起業セミナーなどに参加して専門家の意見を聞くのも一つの方法だと思います。漠然と思っているよりも、言葉にしたり、文字にしたりすることで、見えてくるものがあるはずです。それから、常に向上心を持って情報収集を怠らないことも、事業を成功させるカギだと思います。これまでの経験をフル活用して、ぜひ「やりたい!」と思ったことに果敢にチャレンジしてみてください。