創業者紹介

ツムグお台所

藤林 真理絵

Marie Fujibayashi

温もりいっぱいの人々が住む萩だから、
移住にも創業にも挑戦できました。
人と地域性を知ることが創業には必須です。

藤林 真理絵38years old

Marie Fujibayashi

新潟県生まれ、埼玉県育ちの32歳。大学卒業後は、食べることと子ども好きが高じて保育園の栄養士に。その後、舞台の大道具を製作する会社などを経て、萩市で移動販売「ツムグお台所」を創業。
 
ツムグお台所
創業:2017年9月
住所:萩市 ※移動販売ですので、各地に出張いたします
HP:https://www.facebook.com/torin0meshi/

「食べることが大好き!」という藤林真理絵さん。「食を通じて絆を紡ぐ仕事がしたい」と、2017年9月に、萩市で移動販売「ツムグお台所」を創業。軽トラックを改造した移動販売車で、平日は萩市内で愛情たっぷりのおむすびとお味噌汁を、土日祝日は県内外のイベントでカレーなどの軽食を販売しています。新潟生まれ、埼玉育ちの藤林さんと萩市との出会い、そして創業に至るまでの苦労や現在の状況などについてお聞きしました。

創業しようと思った理由を教えていただけますか?

埼玉で学生時代を過ごした後は、東京の保育園に就職して栄養士として働いていました。元々、食べることと子どもが大好きだったので、その両方に関われる仕事を選びました。しかし、実際に働きだしてみると、毎日毎日、朝から夜まで本当に忙しくて…。慌ただしく過ぎていく日々に「このままでいいのだろうか?」と思い悩むようになりました。やりがいは大きかったのですが、思い切って退職。今度は、食には全く関係のない、舞台の大道具などを製作する会社に転職しました。新しい仕事にも慣れてきて少し余裕ができてくると、「やっぱり食に関する仕事がしたい!」と想いが再びでてきて(笑)。そこから真剣に飲食店の経営を目指し始めましたね。

萩市との出会いは何だったのでしょうか?

昔からカフェ巡りをするのが大好きで、いつかは生まれ故郷の新潟でカフェを開きたいなと思っていました。埼玉でお世話になっていたカフェの店主に相談しにいったときに「カフェだけで、しかも地方で営業していくのは難しい。けど、カフェを併設したゲストハウスならやっていけるのでは?」とのアドバイスをいただいて。それで知り合いの長野県のゲストハウスを紹介してもらいました。でもその時は、残念ながらアルバイトの募集をしていなくて…。そのゲストハウスのデザイン&施工をされた方が、萩市のゲストハウスrucoも手がけられていたことがきっかけで、萩市との縁が生まれました。

創業の地として萩市を選んだ理由を教えてください。

ゲストハウスrucoでヘルパーとして1ヵ月、長野のゲストハウスで1ヵ月ほど働いた後、ワーキングホリデーを利用して、念願だったニュージーランドとオーストラリアで10ヵ月ほど過ごしました。ニュージーランドの首都ウェリントンは、“カフェの街”と呼ばれるほど、いたるところに美味しいカフェがあるんです。日本ではあまり知られていませんが、“世界8大コーヒーの街”にも選ばれているんですよ。またオーストラリアも、独自のコーヒー文化が根付いているカフェ大国なんです。長野、ニュージーランド、オーストラリア、どこもとても充実していたのですが、なぜか萩で過ごした1ヵ月が特別なものとして思い浮かんできて…。萩の豊かな自然はもちろんですが、ゲストハウスの仲間たち、ふれあった地元の方々、旅人のみなさん…私にとってはどれもが本当に心地よくて、楽しかったんですね。それで萩へ移住することを決断しました。そして、この萩で創業することになりました。

当初の計画から移動販売のスタイルだったのですか?

店舗を借りて営業することを考えていたので、帰国後は埼玉から月に1回のペースで萩市に通い、理想の物件と住居を探していました。けれどもなかなかイメージに合う物件には出会えず…。その後、再びrucoで働かせてもらえることになり、仕事をしながら物件を探し続けました。ある時、萩の友人との何気ない会話の中で「まずは移動販売からはじめてみたら?」と言われてハッとして。移動販売車だったら莫大な初期投資をかけずに低コストで開業ができる。また、移動販売であちこちを回れば、自然と萩市の地域性を理解することもできる、そして何より、多くの人に出会えて、私の存在と私がやろうとしていることを知ってもらえる…。それからすぐに、移動販売車の準備に取りかかりました。

資金の調達はどのようにされたのですか?

全て自己資金でまかないました。といってもそんなに大きな額ではありません。中古の軽トラックを購入したぐらいですね。車の改造は、家具職人の友人からアドバイスをもらいながら自分で手作りしました。なので、材料費以外のコストはほとんどかかっていません。前職で大道具の製作を経験したことが、ここで大いに役立ちましたね(笑)。完成までには2ヵ月弱かかりました。これから始まることに期待が膨らむ一方で、「本当にこれで大丈夫なのかな?」という不安もありましたね。唯一のハードルは、不安定な精神状態に打ち勝つことだったのかもしれません。

創業に関わるセミナーなどには参加されましたか?

資金の借り入れなどを考えていなかったので、特に参加はしませんでした。補助制度などの情報は、基本的には市報から得ています。ただ、市役所や商工会議所には何度も足を運ばせていただいています。具体的に何かを相談するときもありますが、萩市のいろんな方々とつながれたり、いろいろな取り組みが知れたりと、どちらかというとネットワークづくりが主ですね。移住者の私にとってとてもありがたい場所です。

現在はどのような営業をされているのですか?

平日は、萩市内にある光栄商会さんの店舗前で、7時30分から売り切れるまで朝ごはんを販売しています。「なぜ朝ごはんなの?」と不思議に思われるかも知れませんが、これはワーキングホリデーでニュージーランドへ行ったときに発想を得たものなんです。日本の朝はとっても慌ただしいですが、ニュージーランドでは朝食にたっぷりと時間をかけます。この朝の楽しみと、豊かな1日の始まりを日本人にも体感してもらいたい、日本にも浸透させたい、単純にそう思ったんですね。メニューは、おむすびとお味噌汁のみのシンプルなものですが、みなさんにとても喜んでいただいています。土日や祝日などにはイベントに出店しています。提供するメニューは主にカレーで、毎回50食程度を仕込んでいます。萩市内はもちろん、山口市や長門市などの市外、広島や福岡などの県外、お呼びがかかればどこにでも出向きます。それぞれの土地の方々とふれあえることで新しいものが吸収でき、たくさんの刺激ももらえています。またそこから新しい絆が生まれ、ネットワークが広がっていくのも楽しいですね。イベントが続くと忙しいですが、とても充実した毎日が送れています。

創業して良かったこと、不安なことは何ですか?

大好きな食を仕事にできたことはもちろん嬉しいですが、一番は、やっぱり人の温もりにふれられることですね。温かく見守ってくださる方、アドバイスをくださる方、私の料理を笑顔で食べてくださる方…。創業したことで、会社勤めではできない貴重な体験をすることができています。ここまでこれたのは、温かい萩市のみなさんのおかげです。心から感謝しています。不安なことは、やはり経済面ですね。営業時間や休日などは会社員と比べて自由にできる分、お金の心配ごとはつきません…。ただ、創業から約1年が経過して、収入の波はある程度予測できるようになりました。精神的な部分でのコントロールは、少し上手になった気がしています(笑)。

今後の目標を教えてください。

現在、店舗を構える計画を進めています。もっといろんなメニューやサービスを提供したいということもありますが、それよりもお客さん同士も仲良くなれるような、人々が交流できる場所を創りたいという想いが大きいですね。移動販売車での交流は、私とお客さんの一対一がほとんど。私がゲストハウスrucoで知った出会いや交流の楽しさ、そして、ふれあった萩の人々の温かさを多くの人に体感してもらえるような場所になるといいなと思います。次世代を担う若者とも一緒に働きたいですね。「何かを生み出す」ことをともに体験することで、働き方や生き方を改めて考える機会になれればいいかなと。その経験から、将来の選択肢が何か一つでも増えるといいなと思います。料理に関しては萩市にあまりない多国籍料理をはじめ、さまざまなジャンルに挑戦していく予定です。

創業をお考えの方に何かアドバイスをお願いします。

いろんな不安も生まれてくると思いますが「思い切り」も大事です! 本当に頑張っている人には、周りの人が手を差し伸べてくれるものです。まずは実際にやってみて、合わなければ立ち止まったり、引き返したり、方向を変えたらいいだけのこと。何もやらなかったら、何も始まりません。私のように移住して創業する場合は、ゲストハウスのオーナーさんやその地域のキーマンをお訪ねするのをおすすめします。その土地についてしっかり知ることは、創業にはとっても大切です。県や市、商工会議所の相談窓口も親身になってくださいますよ。