創業者紹介

TOMOCOFFEE ROASTER and CRAFTERY

繁本 智子

Tomoko Shigemoto

どうせ苦労するならやりたいことで! 
生きていくための創業でしたが、
満足度の高い充実した日々が続いています。

繁本 智子55years old

Tomoko Shigemoto

岩国市生まれ。夫との死別がきっかけとなり、子育てをしながらの「生きるための手段」として、コーヒー豆の販売を主軸に、カフェやクラフトの委託販売、ワークショップを開催するスペース「TOMOCOFFEE」を創業。現在、ホームページとオンラインストアの開設を準備中。
 
TOMOCOFFEE ROASTER and CRAFTERY
創業:2017年7月(グランドオープンです。プレオープンは5月)
住所:岩国市元町3-1-1
HP:https://www.facebook.com/tomocoffeeiwakuni/

幼稚園の頃から始まったコーヒー好きが高じて、コーヒー豆の販売を主軸とする「TOMOCOFFEE」を創業した繁本智子さん。カフェ営業をしながらクラフトを販売したり、ワークショップを開催したりと充実した日々を送っています。そんな繁本さんが創業に至った理由は、夫との死別や子育てなどのさまざまな難題を抱えた中で、条件に合う就職先がなかなか見つからなかったことにあります。「自分の働き口を自分でつくる」と決意した繁本さんが歩んだ創業までの道のりと、現在の状況、これからの目標などについてお聞きしました。

これまでの経歴と創業に至った理由を教えてください。

県外の短大を卒業後、国家公務員として働きました。そして、契約社員という形で民間の企業を何社か経験したあと、また公務員に復帰しました。結婚してからもしばらくは続けていたのですが、子どもの出産とともに退職して専業主婦になりました。実は、子どもが生まれつき体が悪くて、仕事と家事・育児を両立させることが難しかったんです。リハビリに連れて行ったり、学校行事に参加したりと、子ども中心の日々を過ごしていたそんな時、今度は主人の病気が発覚しまして…。治療の甲斐も虚しく、子どもが小学4年生の時に他界してしまいました。そこで改めて「自分で生きていく」ことを強く意識しましたが、子どものリハビリだの学校行事だのをこなしつつなので就職はとても難しく、現実は厳しかったです。そこで、最終的には「自分の働き口は自分でつくろう」と思いました。それが創業を決めた大きな理由です。

どうして現在の事業を選ばれたのですか?

もともとコーヒーが好きだったので、同じ創業で苦労するなら自分の好きなことをやろうと思いました。私のコーヒー歴は長くて、始まりは幼稚園の頃でした。あまりにもよく飲むので、母が家のコーヒーをカフェインレスにこっそりと切り替えていたぐらいです(笑)。中学校の頃には、すでに近所の喫茶店やコーヒー専門店にちょこちょこ行っていましたが、これを商売にしようするなんて考えもしませんでした。社会人になってから、プロ仕様のロースターを使うコーヒー豆焙煎のワークショップに参加したことをきっかけに、広島で一番古いコーヒー専門店を経営されている方と親しくなり、コーヒー豆に関するいろいろなことを教えていただいた影響が大きかったように思います。今思えば、その頃から少しずつ創業の芽が出ていたんだと思います。

創業のためにどんな準備をされましたか?

まずは両親に、コーヒー豆の販売を主業としたカフェを創業したいと伝えました。ものづくりも取り入れたいので店内でクラフトの委託販売やワークショップなども展開したい…と構想を話すと、「子どもを抱えて生きていかないといけないのに、何夢みたいなこと言ってるんだ! 就職して働きなさい!」って反対されました。ただ、就職の厳しさは痛いほどわかっていましたし、自分の中ですでに覚悟はできていたので、諦めようとは思いませんでした(笑)。そこから3年ちょっとの間、貯金を少しずつ切り崩しながらいろんなカフェを回ったり、クラフト系のワークショップに参加したり、私なりのマーケティングと人脈作りを水面下で進めていきました。創業を考えていることはごく親しい友人にしか伝えていなかったので、大半の人が「この人、遊び回ってるな」と思っていたんじゃないでしょうか(笑)。

創業のためにどこかで学んだり、指導を受けられましたか?

岩国市岩国商工会議所が主催する創業カレッジに参加しました。本当にためになるかどうかわからないけれど、何も知らないよりかは知っておいた方がいいというぐらいの気持ちでしたね。結果は、参加して大正解でした。講師からのアドバイスや他の受講者たちから刺激を受けたことで、それまでの私の中にはなかった可能性や選択肢が見えてきて、漠然としたイメージがどんどん絞られ、構想がより具体的になっていきました。第三者からの冷静な意見も、事業の方向性や可能性を探るのにとても参考になりました。また、金融機関からの融資を受ける際には、創業カレッジの締めくくりとなるプレゼン大会に向けて作成した事業計画書が役に立ちました。

実際に創業されてみていかがですか? 感想をお聞かせください。

創業前に抱いていたイメージとは大きくかけ離れています。保健衛生的に、飲食とワークショップのスペースをきちんと分ける必要があったので仕方なかったのですが、店舗がここまで大きくなるのは想定外でした(笑)。そして、オープン当初から想像した以上に忙しかったことも。創業した年の5月にプレオープンしたのですが、ありがたいことに、たくさんのお客さまに来ていただきました。ただ、あまりの慌ただしさにこれじゃ無理だと思って、そこから計画を練り直したり準備をしたりするために、2ヶ月間、店を閉めることにました。創業して3年くらいは私一人で切り盛りして少しずつ広めていこうと計画していましたが、とても一人では回せない状況になって…。7月に迎えたグランドオープン時からは、常駐してくれるスタッフ1名と時間のあるママ友に手伝ってもらっています。こんなに早く人を雇用するとは思っていなかったので正直不安もありましたが、お給料をお支払いできるくらいの売上はどうにかあり、ホッとしています。飲食店にありがちな「お客さまがゼロだった日」が未だにないのは、本当にありがたいですね。

プレオープン前に広告宣伝活動などはされていたのですか?

チラシの配布や媒体への広告掲載は一切しておらず、インスタグラムやFacebookなどのSNSを活用して情報発信をしました。それなのに、こんなにも多くのお客さまにお越しいただいて…。その効果の大きさに驚いています。創業前からいろいろな方とのネットワークづくりをしていたことも大きな要因だと思いますね。今後も、友人や知人、現在の常連のお客さまたちによる口コミで認知度を高めていくのが理想です。コーヒー好きな方やクラフト好きな方など、同じような好みをされた人たちが自然に集うような場所にしていきたいですね。

創業後、他に苦労されたことや大変だったことはありますか?

建物自体がとても古かったので、内装だけでなく基礎の部分まで工事をしなければいけなくなって、計画よりもかなり初期費用がかかってしまいました。当初は全て自己資金で賄うつもりだったので、改装工事費を借入したのは想定外でした。また、取引をしてくれる業者を探すのも大変でした。個人店だと大量購入をしないので、取引をしてくれる業者が少ないんですね。だから、生鮮食材は現在も店を閉めて自分で買いに行くパターンが多いです。「閉店と同時にその日の業務が終わり」という日の方が少なく、今のところワークライフバランスは思いっきり仕事の方に偏っています。実績がついてきたら徐々に改善されていくと思うので、今はまだまだ踏ん張り時だと自分に言い聞かせています。「お母さんが頑張っている」と思ってくれている子どもの理解が、何よりありがたいですね。

創業して良かったことは何ですか?

自分のペースで物事を決められることが一番いいですね。毎週水曜日は、子どもを病院に連れて行くために短縮営業にしています。会社に勤めていたら、こんな風に自分の都合を優先することはなかなかできませんから。たとえ会社が欠勤や早退に寛容で応援してくれたとしても、申し訳なさから周りの目が気になってしまいます…。一緒に働く人たちに迷惑をかけることを心配しなくていいので、今の方がずっと気楽です。大好きなコーヒーとクラフトに囲まれた毎日は、忙しく大変なこともありますがとても充実しています。

今後の目標を教えてください。

店を大きくしたり、多店舗展開したいという希望はなく、今のこの空間の中でできることを増やして売上を安定させたい、伸ばしたいと思っています。具体的には、メニューの開発やクラフトに関するワークショップの充実などです。それと、現在はランチとかスイーツとか食べ物を目当てに来られるお客さまが多くを占めていますが、主業はコーヒー豆の販売なので今後はもっとそちらに力を入れていきたいですね。すでにホームページの開設に向けて準備を進めていますが、オンラインストアを利用しての豆の販売も計画しています。あとは米軍基地関係のお客さまにもよくご利用いただいていますので、私の英語力を磨きたいと思っています。今も勉強しているのですが、なかなか追いつけず…苦戦しています(笑)。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

「創業したい!」という気持ちはもちろん必要ですが、不安の方が勝る場合はやめておいた方がいいと思います。事業を興すにはやはりリスクはつきものです。不安を吹き飛ばすくらいの覚悟がないとやってはいけないと思います。それと、資金面においては借入に頼りすぎないことをおススメします。商売をしていると思わぬトラブルが生じるものなので、最初から売上だけで生活の全てを賄おうなんて思わずに、別で生活資金を確保したうえで展開し、生活資金が確保されているうちに事業を軌道に乗せる、というやり方が理想的です。また、万が一失敗した時に備え、常にリスクを最小限に抑える方法を意識しておくことも大切だと思います。でも何より大事なのは信念です。確実な勝算なんてない私がここまでやってこれたのも、やっぱり信念があったからだと思います。強い思いと冷静な判断力をもって臨まれることを願います。