創業者紹介

オカモト福祉タクシー

岡本 学

Manabu Okamoto

第二の人生として選んだのは創業。
資格と経験が活かせる福祉タクシーで
これまでになかったやりがいを実感。

岡本 学59years old

Manabu Okamoto

鹿児島県出身。33年間務めた自衛官を定年退官後、地域に貢献できる仕事をするために「オカモト福祉タクシー」を創業。最新型ストレッチャーを装備した最大8人が乗れるタクシーを相棒とし、「地域の足」を目指して邁進中。
 
オカモト福祉タクシー
創業:2018年9月
住所:防府市国衙1-10-40
HP:https://peraichi.com/landing_pages/view/oft

21歳から定年を迎えるまでの33年間、自衛官としての任務を全うしてきた岡本学さん。第二の人生では「もっと地域と密接に関われて、社会に貢献できる仕事をしよう」と、以前から興味を持っていた福祉の道へ進むことを決意。何がやりたくて、何ができるのだろうと改めて自分自身と向き合った結果、取得していた資格が活かせる「オカモト福祉タクシー」を創業することにしました。創業に至るまでの経緯や創業前の準備、創業してから学んだこと、そして今後の目標などをお聞きしました。

これまでの経歴と創業を決めた理由を教えてください。

21歳から定年を迎えるまでの33年間、自衛官として勤務しました。自衛隊時代は単身赴任が多く、あまり地域に関わることができなかったので、定年退官後は、地域に貢献できる仕事をしたいなとずっと思っていました。建設関係の企業に再就職することが決まっていたのですが、「本当にこの選択が正しいのだろうか?」という迷いが生まれてきて…。そのモヤモヤを解消しようと、自分自身の棚卸しをして、自分には何ができるのか、本当は何がやりたいのかをじっくりと考えてみました。その結果、「福祉の仕事を通じて地域に貢献したい」という結論に至りました。そして、自分の持っている資格なども考慮し、「福祉タクシー」で創業することを決意しました。

福祉関連の仕事に興味を持たれたきっかけは何だったのですか?

退官する3年前に高等技術学校で福祉について学んだことがきっかけですね。そこでの学びで、これからは介護予防に力を入れなければならないことを痛感しました。ですから当初は、高齢者も障がい者も健常者も誰もが集える場所を作りたいなと考えていました。いろんな人たちが通え、コミュニケーションが生まれる場所を設けることで、健康寿命を延ばしていければと考えたんです。ただ、この構想は施設要件や人的要件のハードルが高く、今の自分の身の丈には合っていないと判断し、断念しました。他にできることはないかと考え、大型自動車第二種免許と大型自動車教習指導員の資格を持っていたこと、それに、先に退官された先輩が介護タクシーを創業されており、いろいろと話を聞いていたことから、「福祉タクシー」の創業にたどり着きました。

創業のためにどんな準備をされましたか?

地域の病院・介護施設・老人ホームなどでお話を聞いたり、国土交通省のホームページに載っている資料を見たりして情報を集めました。それから、防府市内で市場調査も行いました。そこで防府市にはストレッチャーを装備した介護車両が少ないことがわかり、事業としてやっていけることを確信しました。その次は、陸運局のホームページを見て、介護タクシーを創業するための手順や必要な書類、資格などを調べました。必要書類は一般の事務仕事ができれば問題なく作成できるものですが、なんと約30種類、全部で100ページくらいあるんです。ボリューム的にはなかなか大変でした。また、それと並行して、利用者の立場に立ったきめ細かなサービスを提供するために、介護職員初任者研修を、それから東京へ行って福祉輸送限定乗務員研修を、さらに視覚障害者にも対応できるよう同行援護従業者応用課程研修を受け、それぞれ資格を取得しました。その上さらに、車両や機器を選んだりと、準備することはいろいろありましたね(笑)。

商工会議所などへは相談されましたか?

防府市創業支援センターの個別相談を利用させていただきました。料金設定、サービス内容などについて、客観的な視点を持つ第三者のお話を聞いてみたいなと思って。ご相談をさせていただく中で、防府市の現状や地域にお住まいの方々の暮らしぶりなどがわかり、病院や施設の送迎はもちろん、一人暮らしの高齢者や外出が難しい障がい者のみなさま、そしてそのご家族がもっと気軽に外に出られるよう、より生活に密着したサービスを展開したいと思うようになりました。それで、一般的には「介護タクシー」とするところを、もっと広い意味で捉えてもらうために「福祉タクシー」としました。また、自分の名前をしっかりと出すことで信頼を得たいと考え、頭に名字をつけて屋号を「オカモト福祉タクシー」にしました。

創業資金はどのようにして準備されましたか?

自己資金が2割、金融機関からの借入が8割です。金融機関選びについては、実際に創業を経験されている先輩方や防府市創業支援センターの担当者からアドバイスをいただきました。創業資金は、車両代や車イスなど必要となる器具や備品の購入費にあてました。金融機関に提出した事業計画書は、インターネットで調べながら作成したものを、防府市創業支援センターの担当者にチェックしていただいてブラッシュアップさせていきました。借入が必要ない方でも、事業に関する考えがしっかりまとまるので、事業計画書の作成はオススメですね。

創業の準備で一番大変だったことは何ですか?

車両選びですね。近くに介護車両を取り扱っているお店がほとんどなかったので、東京まで車両を探しに行きました。私が理想とするサービスを提供するためには、ストレッチャー固定金具が装備されているリフト式の車両であることが絶対条件でした。時間もお金もかかって大変でしたが、その甲斐もあって、安心安全でそして快適にご利用いただけているのではないかと思っています。

創業後、現在の状況はいかがですか?

創業当初の9月は利用が少なく待機時間が多かったという印象ですが、10月くらいからだんだんと予約の数が多くなってきて、現在はお断りをするケースも出てきています。病院や介護施設、道の駅などにチラシを配布したり、地域の回覧板にチラシを入れさせてもらったぐらいなので、もっとスローペースで利用者が増えていくんだろうと思っていました。予想を超える反響に正直驚いています。利用の比率としては病院からの依頼が8割くらいですが、地域の方が通院や買い物、法事、結婚式などに利用してくださることもあり、「地域の足」として活躍できていることに喜びを感じています。

創業後、失敗されたことや、苦労されたことはありますか?

一番最初のお客様のときに、お釣りの小銭を用意し忘れて、病院に向かう途中で銀行に寄ることになってしまい約束の時間に少し遅れてしまいました。さらに、ストレッチャーに乗っていただいたときに、体にかけるブランケットも用意し忘れてしまって…。病院にあったブランケットをお借りして、なんとか事なきを得ましたが、本当に焦りましたね…。こんな風に実際に体験しながら日々学ばせていただいています。苦労するのはやっぱりご自宅に送迎に伺うことですね。ストレッチャーで入れるところもあれば、抱きかかえて運ばないといけない場所など、状況はさまざまです。なので、予約時に電話で細かい点までご質問させていただくことはもちろん、場合によっては前もって下見にお伺いすることもあります。せっかくご縁があってご依頼いただいたのだから、できるだけ気分良くご利用いただきたい、もうその思いだけで業務に取り組ませていただいています。

創業して良かったことはありますか?

地域の方々のお役に立てているのを実感できることですね。自衛官の頃も社会貢献のために働いていたことに違いはないのですが、日頃は、ほぼ訓練で市民のみなさまとふれあう機会はそんなに多くありませんでした。今は利用してくださった方の笑顔を間近で見ることができますし、直接お礼の言葉をお聞きすることもできるので毎日が充実しています。以前、障がい者施設からのご依頼でショッピングモールに送迎させていただいたときに、帰りのタクシーの中で利用者のみなさまが「今日は楽しかったね」「また行きたいね」っていう会話をされていて、そのときは喜びで胸がいっぱいになりました。ほか、自衛官時代よりも勤務時間こそ長くはなりましたが、待機している時間は読書を楽しんだり、音楽を聴いたりなどして、穏やかに過ごせる時間が増えたことも創業して良かったことの一つですね。

今後の目標を教えてください。

まずは経営を安定させることが第一ですが、ゆくゆくは車両と人員を増やして受け入れられる数を増やし、地域の足としてもっともっとお役に立ちたいですね。そして、高齢者や障がいのある方がもっと気軽に出かけられる社会に変えていきたいです。また、ある程度経験を積んで、基盤がしっかりできたら、介護予防を目的としたいろんな人たちが集える場所をつくり、地域の拠点としていきたいです。さらに、そこに行きたい方のために私がタクシーで送迎をして…と、総合的なサービスをすることが最終的な夢ですね。実は、最近もう一つ新しい夢ができました(笑)。それは私の出身である鹿児島でも福祉タクシー事業を創業することです。終の住処として防府を選びましたが、鹿児島にいる歳をとった親戚たちの生活ももっと楽しいものにできないかと。創業のノウハウはもう得ているので、親戚のうち誰かがやりたいって言ってくれないかなと期待しています。

現在創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

何が好きなのか、何ができるのかを把握するために、まずは自分の棚卸しをしてみてください。そしてこれで創業すると決めたら、事業計画を作成し、事業に関する考えをまとめてみるといいと思います。そのほかには、第三者に意見やアドバイスを求めてみるのもオススメですね。違う視点を取り入れることで、初めて気づけることもたくさんありますから。あとは、矛盾するようですが、他人の意見に流されずに自分のやりたいことを成し遂げる志も大切だと思います。いきなり大きなことはしなくてもいいと思うので、できることからまずは一歩を踏み出してみてください。