創業者紹介

yuQuri

中原 昌代

Masayo Nakahara

大好きなパンを追求したい!
福祉の仕事で出会ったパン作りで
地域に、地域の人々に貢献を。

中原 昌代51years old

Masayo Nakahara

長門市出身。京都のインテリアカタログ制作会社で6年間働いたのち、実家がある萩市にUターン。福祉の仕事をする中で出会ったパン作りを極めるために退職を決意。2015年7月、手作りパンの製造、販売する「yuQuri」を創業。2階のイートインスペースではワークショップや企画展などを開催。
 
yuQuri
創業:2015年7月
住所:萩市唐樋町9
HP:https://yuquri.thebase.in

高校までを地元・長門市で過ごした中原昌代さんは、大学進学を機に関西に移住し、その後、京都のインテリアカタログ制作会社に就職しました。6年間働いた後に実家がある萩市にUターンしてからは、これまでに経験のない福祉の仕事に従事。勤めていた福祉施設が新事業としてパンの製造に着手したことがきっかけで「おいしいパンでひとを喜ばせたい」と思うようになりました。自己研鑽しながらパン製造事業を軌道に乗せた後、パン屋の創業を決意。創業前の準備や現状、これからの目標などについて聞いてみました。

これまでの経歴を教えてください。

京都のインテリアカタログを製作する会社に就職し、営業企画として6年間働きました。クライアントさんとの打ち合わせ、デザイナーさんとの企画、撮影、編集作業など納期に追われながらもやりがいのある仕事でした。都会で働く中で、故郷の自然の景色や海が思い出され、自分の中で納得のいくところまで働けたと思えたタイミングで区切りをつけて実家のある萩市に帰ってきました。地元では福祉の道に進むことを決めて資格を取得し、NPO法人が運営する児童養護施設で療育の仕事や、障がい者福祉施設で支援員として10年間働きました。

パン作りを始めたきっかけは何だったのですか?

障がい者の福祉施設で、菓子・パン製造の新事業を立ち上げることになり、最初の段階から関わらさせていただくことになりました。利用者さんに教えるためにパン教室でパン作りの基本を学んだところ想像以上に楽しく、知識と技術を得た後も自己研鑽として学びを継続し、師範科まで取得しました。この菓子・パン製造の事業の立ち上げから軌道に乗せるところまでをさせていただいた経験が今につながっています。

創業を決めた理由を教えてください。

福祉の仕事も大好きだったので利用者さんとのパン作りはとてもやりがいがありましたが、事業が安定してきた頃から今後の自分の人生について考えるようになりました。福祉の仕事とパン作りと両方の専門性を高めることの難しさにジレンマもありました。そのうちに自分のお店を出したいという気持ちが少しずつ膨らみ、町を散策しながら物件に関するアンテナを張っていたり、自宅でもパン作りの研究をするようになっていました。そんなとき、福祉施設でのパン製造を次の担い手に引き継げるタイミングがあり、「一歩踏み出すときなのでは?」と創業への道が拓けました。福祉の仕事と縁が切れるのではなく、今まで関わってきた方々も気軽に立ち寄れる場所の一つとして新たに始めるパン屋が加わることも地域貢献なのではと考えて決断しました。

創業に向けてどのような準備をされましたか?

商工会議所が主催する創業セミナーに参加して事業計画書の書き方を学びました。パンの種類や単価、個数をどうするのか、原価はどのくらいかかるのかなど数字の面が整理できたりなど、具体的なことを考える機会となりました。また、それと並行して仕入先や導入する機器などの情報を収集し、選択しました。物件については、以前からアンテナを張って探していた中から、利便性や自分のインスピレーションを頼りに「ここでお店をしたい!」と思える場所に決めました。内装は、旅先でいろいろなパン屋を巡ったり、インターネットで探したりして参考になる写真や情報を収集し、大工さんにイメージを伝えていきました。デザインについては、京都の会社時代の同僚のデザイナーさんに、家具は萩市内の家具職人さんにお願いするなど、これまでの出会いや経験がお店作りに活かされました。

自分で経営していくことに不安はありませんでしたか?

事業計画書を作っている時点ではやっぱり不安がありました。福祉施設でも、仕入れと売上の計算、利用者さんに工賃を払うところまではやっていたので、大まかなお金の流れは理解していたのですが、全て自分がやるとなるとやっぱり少し怖かったです。創業しようと決めてからオープンまでに約1年半をかけたので、徐々に覚悟ができていったという感じです。始めてみたら学びの連続ですが、不思議と周囲の支えもあって乗り越えていっています。

創業資金はどのように準備されたのですか?

自己資金と萩市起業化支援補助金です。起業化支援の助成金を申請しました。その際は、商工会議所に相談に行き、県の助成金制度の情報などもアドバイスを頂き、検討した結果、市の助成金を申請することにしました。自己資金についてはこれまでの貯えと退職金などを資金にしました。

創業してすぐの状況はいかがでしたか?

SNSを使っての告知をしましたが、情報が広まり、オープン当初よりたくさんのお客さまにご来店いただきました。萩市にパン屋が少ないこともあり、新しくパン屋ができることを楽しみにしておられたようです。当初、一人でお店をするつもりでしたが、ありがたいことにスタッフにも恵まれ、2名に手伝っていただくことになりました。

現在の状況はいかがでしょう?

リピートしてくださるお客さまや、バスセンターを利用される高齢のお客さまが多くいらっしゃいます。開店してから4年目になり、1年を通してのお客さまの流れも見えてきましたので、どのようにしてお客さまに喜んでいただくか、継続して来ていただくかを日々考えながら営んでいます。また、対面販売なのでどのようなお客さまがどのようなパンを購入されているのかを自分の目で確認することができるので、パンの種類や個数の調整も随時行っています。より多くのひとに知ってもらうためにイベントにも不定期で出店し、嬉しいことに新しいファンも増えています。地元の農家さんや、地元の生産物などのつながりも増えてきて、新たなメニュー開発も地元産にこだわりながら行うなど、日々挑戦中ですがおかげさまで順調です!

現在のワークライフバランスはいかがですか?

生活の中心が仕事になっていますが、自分の好きなことなので、仕事ですが仕事ではないような…、生活の一部になっているという感覚です。ただ、体力的にはかなりハードなので、自宅で過ごす時間は食事や睡眠の時間に占められます。店の営業日は週4日で、それ以外はイベントに出店したりしていますが、なるべく週に1回は仕事から離れて、外部からインプットする時間やリフレッシュできる時間を持てるようメリハリを大切にしています。

創業してからどんな苦労がありましたか?

最初の1年は仕事のペースをつかむのにとても苦労しました…。仕込みが追い付かず睡眠時間を満足に取ることができなくて疲労が溜まったりしました。お店に来てくださるお客さまに喜んでもらいたいと思うと無理してパン作りをし、体調を崩してしまったりしたこともありました。パン作りはすべて一人で行っているので、自分が倒れてしまったらお店を開けることができません。自分の身体と想いとのバランスが大切だと実感しています。

創業して良かったことは何ですか?

大好きなパンを中心とした生活が送れていることと、このお店を媒介にいろんなご縁がつながっていることですね。店名の「yuQuri」は、古語の「ゆくり」をアルファベット表記にしたもので、「ゆかり・ご縁・きっかけ」という意味なんです。萩で出会ったたくさんの方々の協力があったおかげで実現できたこのお店は、私にとってまさにご縁をぎゅっと集結した空間です。そしてお店からまた新たなご縁が広がっていくことも楽しんでいます。また、近隣で商売をされているオーナーさんたちと連携して、萩の街の活性化に少しでも貢献できたらと思っています。創業したからこその感謝や喜びを日々感じています。

今後の目標を教えてください。

街のパン屋として、人の暮らしの中に存在できるよう、今後もおいしいパンを作り続けることに精進していくことです。今後の取り組みとしては、出張パン教室を考えています。より身近にパン作りを感じてもらえたらと思っています。現在、福祉に関わるパン教室も行っていますが、これまので経験も活かせる「自分ならでは」のことなので、今後も増やしていけるといいなと思っています。また、他業種と連携して、ワークショップでのパン作りなど、楽しんでパンを作れる企画もできたらいいなと思います。

創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

誰でも創業するのはとても不安で勇気がいることだと思います。私のように異業種への転向はなおさらですが、これまでの経験も決して無駄ではなく、確実に今につながっています。人生は一度きりなので、自分が楽しんでできることにぜひトライしてみてください。