創業者紹介
Neo Blue Distillery
西村 一彦
Kazuhiko Nishimura
棚田で育てたフレッシュハーブを使う
クラフトジンの製造・販売で
大好きな地元長門市を元気にしたい!
西村 一彦52years old
Kazuhiko Nishimura
北九州出身、長門市育ち。地元の高校を卒業後、大手の酒販会社に就職。現在は、京都にある妻の実家の西村酒店の店主を務めながら、長門市の棚田で栽培したフレッシュハーブを使用したクラフトジンの製造・販売を手がける「Neo Blue Distillery」を経営し、地域の活性化に尽力する。
Neo Blue Distillery
創業:2019年5月
住所:長門市油谷新別名960-7
HP:https://neobluedistillery.co.jp
これまでの経歴を教えてください。
地元・長門市の高校を卒業後、県外の大学で経済学を学び、酒類卸の大手に就職しました。その後、縁あって実家が京都で西村酒店を営む妻と結婚し、私は店主としてその店を支えることになりました。それから現在に至るまで、店主として年に数回ワインの買い付けで海外へ行ったり、ワイン販売のコンサルティングを手がけたりしています。また、ボルドー地方のワインの名声を高めることを目的に結成されたボンタン騎士団と、シャンパーニュの普及と啓発に努めるシャンパーニュ騎士団に就任するなど、様々なシーンでお酒に関わらせていただいています。そして2019年5月に、新たな挑戦として、故郷の長門市でクラフトジンの製造・販売を行う会社「Neo Blue Distillery」を創業しました。
なぜ長門市で創業しようと思われたのですか?
一番の理由は、自分が育った長門市をもっと元気な地域にしたかったからです。長門市は自然豊かで穏やかな素晴らしい場所ですが、そこに突出したモード(文化)がないことをずっと残念に思っていました。ですから、新しいモードを築くことができれば他の地域との差別化を図るだけでなく、新たな雇用が生まれ、もっと活性化できるのではと考えました。また近年、長門市は元乃隅神社の絶景で大きな注目を集めていますから、日本の良さを世界に発信する拠点としても活用しない手はないと考えました。
ジンの製造・販売の事業に決めた理由は何ですか?
長門市を活性化するために、まずは耕作放棄地になっている棚田の再生に着手しようと考えました。しかし、資金も人手も農業のノウハウもないので、米や麦などの栽培はハードルが高すぎます。そこで思いついたのが、海外で何度も目にしてきた無農薬でも力強く育つ、比較的栽培が簡単なハーブでした。しかもハーブには「香り」という特徴がありますから、棚田を再生できるだけでなく、長門市に新たな「香りのモード」を誕生させることができると閃いたんです。と同時に、生産したハーブを原料に蒸留酒のジンを作るアイデアも浮かんできました。ジンの消費量はここ数年、世界的に拡大傾向にあります。特に市場を牽引しているのは、厳選した原料で限定生産される高級なプレミアムジンと呼ばれるものです。日本で流通しているジンは、基本的には乾燥させた原材料を使用しています。棚田で生産したフレッシュハーブを使ってジンを製造すれば、付加価値の高いプレミアムジンとして販売することができます。さらに、お酒であれば、西村酒店の販路・人脈を活用することもできます。このような理由から、大きな勝算があると思い、ジンの製造・販売をする事業を立ち上げることに決めました。
創業までにどのような準備をされましたか?
ハーブ栽培を手伝ってくださる人を探すこと、蒸留所の開設、蒸留器の選定と購入、開業資金の準備の4つです。ハーブ栽培については地元の同級生の協力もあり、「ゆや棚田景観保存会」のみなさんや地域住民のみなさんに担っていただけることになりました。蒸留所は長門市役所油谷支所の目の前にある、空き家だった旧ロータリークラブ事務所を改装して利用することに決めました。フルフラットの建物だったので想定していたよりも改装費を低く抑えることができました。蒸留器の選定は思っていた以上に苦労しました。日本製の蒸留器がなかったので輸入ルートを探し回り、ようやくオランダ製の蒸留器を準備することができました。でも一番大変だったのは、開業資金の準備でしたね。
開業資金の準備はどのような点が大変でしたか?
ジンを取り巻く市場状況や商品価値から考えて、絶対に売れるという自信はあったのですが、山口県では前例のなかった事業だったので、なかなか事業性を評価してもらえず、融資が決まるまでに時間がかかりました。最終的には、自己資金と金融機関からの借入、そして補助金を活用しました。事業計画書や申請書類の作成にも、地元の友人や、ながと大津商工会の方など、本当にたくさんの方々の力をお借りしました。中でも酒類等の製造免許証の取得は、自分一人だけの力では乗り越えられなかったと思います。補助金は「やまぐち創業補助金」に応募し、無事に採択されました。これも知り合いの中小企業診断士からの情報で応募することができました。ご支援いただいたみなさまには心から感謝しています。
ジンの製造もご自身でされると伺いました。
2019年9月にオランダにある蒸留酒づくりを教える学校に留学し、ジン造りのディプロマ(公式証明書)を取得しました。ディプロマを取得したことは、事業を進めていく上での大きな自信になっただけでなく、国税局からの信頼を得ることにも繋がりました。試験的に蒸留した時は本当にできるのだろうかとドキドキが止まりませんでしたね…。思っていたよりもずっといい仕上がりでホッとした時のことは、今でも鮮明に覚えています。
開発されたプレミアムジン「青舞(オーブ)」について教えてください。
一番の特徴は油谷の棚田で育てた約40種類の無農薬栽培のフレッシュハーブ、島根県奥出雲薔薇園で無農薬栽培されたオリジナルローズ「さ姫」を原料として使用しているところです。また、日本の香りの文化を継承するためにほんのわずかですが香木も使用しているのもこだわりです。それと、コルクにもひと工夫しています。ICチップを内蔵したNFC※タグを搭載し、長門市の特産品や観光名所などの情報が掲載されているウェブサイトへ簡単にアクセスできるようにしています。また、帆布で作ったラベルを貼り付ける作業は、長門市の障害者施設に依頼しています。
※NFC/Near Field Communicationの略。日本では近距離無線通信とも訳される。
創業後の状況はいかがですか?
2020年4月に、萩市にある「世界のお酒セレクトショップSAKAYA」と京都の西村酒店、そして当社の3店舗での300本限定の先行販売を皮切りに流通をスタートさせ、おかげさまで初回販売分はすぐに完売となりました。私たちの取り組みを様々なメディアが取り上げてくださったり、ラベル作りにご協力いただいている倉敷帆布さんがホームページで紹介してくださったり、西村酒店のお得意様が宣伝してくださったりと、たくさんの方のご支援をいただいたおかげです。本当に感謝しかありません。それからも比較的順調に製造、販売は進んでおります。まだまだ少ない製造本数ではありますが、ワイン専門商社やフランスのワイナリー、インターネット通販など着々と販路を拡大しています。
創業して良かったことは何ですか?
地元長門市の棚田を再生できたこと、新しい商品を開発できたこと、新たな雇用が創出できたこと、長門市の情報を世界に向けて発信できるようになったことです。まだまだこれからですが、少しでも力になれているのではと感じています。現在は、西村酒店の店主と青舞(オーブ)の製造・販売で、京都と山口を行ったり来たりするとても忙しい毎日を送っていますが、今までにない充実感を味わっています。また、地元に自分の活躍できる場所を見つけることができたのも、とても嬉しかったです。改めて、長門市民の温かさ、そして人と人との繋がりの大切さを感じることができました。
今後の目標を教えてください。
将来的には年間40万本を製造・販売し、8億円〜10億円売り上げるのが目標です。そして、青舞(オーブ)をきっかけにして、長門市を、日本をもっともっと海外に向けてPRできればと思っています。また、現在も少しずつ取り組んでいますが、ハーブを使った別の商品も開発・販売する予定です。
創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。
創業する時期や事業の方向性が明確になっていない状態でも構わないので、行政の専門機関に相談することをお勧めします。専門家によるアドバイスはもちろんのこと、事業計画書の添削や、補助金や助成金、融資制度などの情報提供など、トータルでサポートしてもらえるので遠回りせず進むことができますよ。途中、厳しい現実が見えてきたり、第三者からシビアな意見をもらうこともあるかと思いますが、それでも「絶対にやりたい!」「どうしても実現したい!」という気持ちの方が勝るなら、ぜひ創業に挑戦してください。一緒に山口県を盛り上げていきましょう!