創業者紹介

はるかぜ福祉タクシー

松原 真也

Shinya Matsubara

看護師としての臨床経験を活かして
病気や障害のある人のための
外出支援サービスを提供したい。

松原 真也42years old

Shinya Matsubara

山口市出身、防府市在住。20歳のときに吉南准看護学院に入学。吉南病院に勤務しながら、仕事と学業を両立させ、准看護師、正看護師の資格を取得。27歳のときに山口県立総合医療センターに入職。急性期の病棟や救急、高度治療室(HCU)、集中治療室(ICU)、感染症センターなどに従事し、看護師としてのキャリアを積む。2021年に第二種運転免許を取得。これまでの臨床経験を活かして、2022年に「はるかぜ福祉タクシー」を創業。災害派遣医療チーム(DMAT)、呼吸療法認定士の資格も持つ。

はるかぜ福祉タクシー
創業:2022年8月
住所:防府市国衙1-4-19
HP:https://www.harukazehukushitaxi.com/

およそ20年間、看護師としてのキャリアを着実に積み上げてきた松原さん。母親を看病した自身の体験から、これまで病院や自宅でしか過ごせなかった人も、安心して外出できるような支援を行いたいと福祉タクシー事業を立ち上げました。「病気や障害という壁をなくす外出支援」を新たな使命とする松原さんに、創業のきっかけや準備、今後の展望などをお聞きしました。(取材日:2022年11月1日)

これまでの経歴をお聞かせください。

20歳のときから約20年間、病院で看護業務に携わってきました。山口市の吉南病院の精神科病棟で看護業務に従事した後、防府市の山口県立総合医療センターにて、循環器科、脳神経内科、心臓血管外科病棟、救急救命センター、高度治療室(HCU)や集中治療室(ICU)、コロナ重症患者を対象とした感染症センターで臨床経験を積みました。また、2016年の熊本地震の際には、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として医療活動を行いました。

どうして創業しようと思ったのですか?

肝臓がんを患った母の看護に携わった経験からです。病院でターミナル期を迎えた母に付き添い、できる限りのことをしてあげたかったのですが、外出や帰宅などの希望を十分にかなえられませんでした。その思いをずっと引きずっていたある日、福祉タクシーの存在を知りました。このサービスなら、看護師としての経験を活かしながら、母のように外出が困難な人たちの願いをかなえることができるかもしれないと思いました。防府市内の福祉タクシー事業者について調べてみたところ、医療従事者による事業所を見つけることができなかったため、看護師としてのこれまでの経験を活かせれば、他社との差別化が図れるとわかり、創業にチャレンジしてみようという気持ちが芽生えました。

事業内容を教えてください。

看護師としての臨床経験を活かして、病気やケガ、高齢などを理由に外出が困難な方、肢体不自由などの障害を抱えている方、酸素や吸入などの医療的ケアが必要な方でも安心して外出できるような移動サービスの提供を目指しています。福祉車両には、ストレッチャーや酸素ボンベ、点滴棒、痰の吸引器具、AEDなどの医療機器を備え、感染防止対策も行っています。病院への通院や退院・転院をはじめ、買い物や旅行、観光、冠婚葬祭、市役所での手続きなど、外出困難な生活を少しでも改善する手段として利用していただければと思っています。

創業にあたってどこに相談されましたか?

何から手をつけていいのか全くわからない状況だったので、とりあえず防府市中小企業サポートセンター CONNECT22に行ってみました。相談無料なのを良いことに何度も通わせていただきました(笑)。退職後の健康保険や住民税はどのくらいかかるのか、収入が途絶えても生活していけるのかなど、ありとあらゆることを相談させていただきました。創業アドバイザーが親身になって話を聞いてくださり、的確なアドバイスをくださったおかげで、迷いを吹っ切ることができ、創業への道筋が徐々に見えてきました。

相談する中で何か気づきはありましたか?

創業はゴールではなくスタート。理想や願望を掲げることはもちろん大切ですが、それ以上に、事業を継続していくことの難しさに気づかされました。事業計画書を作成する上で特に苦労したのが売上計画です。1日に何名のお客様に利用していただく必要があるのか、料金設定はどのくらいにすれば良いのか、事業を黒字化するための重要な指標となる損益分岐点を理解することができました。また、防府市内の同業他社の単価設定を調べ、県外で民間救急を導入している会社に視察に行くなど、業界の情報も収集しました。

創業資金はどのようにして準備されましたか?

日本政策金融公庫からの借入と自己資金、(公財)やまぐち産業振興財団の「やまぐち創業補助金」を活用しました。防府市中小企業サポートセンター CONNECT22で「防府市特定創業者認定」や補助金などの情報を得たおかげで、創業時の資金調達の不安が解消されました。 また、日本政策金融公庫で融資を受けた際に、山口県よろず支援拠点も紹介していただきました。そこで社会保険労務士や中小企業診断士などの専門家に相談したり、現役の経営者からホームページやチラシの作り方などをオンラインで指導していただいたりしました。

創業時に不安だったことは?

本当に今の職場を辞めていいのか、創業してやっていけるのかなど自問自答して、何度も不安に押しつぶされそうになり、眠れない夜もありました。創業したいという自分の気持ちを確かめながら、何が不安なのか、何がわからないのか、ノートに一つひとつ書き出して、専門家に相談して解決していきました。

顧客獲得のためにどのようなことをされましたか?

専門家の指導をいただいて作成した名刺とチラシを持って、以前勤めていた病院を訪問し、事業の概要を説明させていただきました。病院スタッフからは「福祉タクシーを必要としている人はたくさんいるから、稼働したらすぐに連絡してね」と温かい声をいただき、大きな励みになると同時に、この道を選んで良かったと心から思いました。 今後は、これまで勤めてきた病院で築いてきた人脈を大切にしながら、防府市内の地域包括支援センターや病院、福祉施設などに出向き、利用者を増やしていきたいと思っています。また、SNSを通じて外出を諦めている方にも情報を発信していければと思います。

創業準備で特に大変だったことは何ですか?

福祉タクシー事業を始めるには、国土交通省運輸局に一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可を受ける必要があります。すべて独学で調べて申請書を作成したのでおよそ半年かかりました。4月に申請して8月に許可が下りたのですが、その間本当に許可が下りるのか不安でした。行政書士や経営コンサルタントなどの専門家に代行をお願いすると、かなり高額な費用がかかるのですが、必要経費だと割り切って相談すれば良かったかもしれません。 また、当初の計画では、運輸局から許可が下りればすぐに事業をスタートできると思っていました。しかし、半導体部品不足の影響で、タクシーメーターなどの納品が遅れ、営業開始が大幅に遅れました。どれだけ綿密なプランを立てたとしても想定外のことが起こる可能性もあります。スムーズな出だしにするためには、不測の事態やトラブルが発生したときのことも踏まえて余裕を持った計画を立てるべきだったと反省しています。

創業して良かったことは何ですか?

着実に夢に近づいている充実感があります。それに、創業しなければこれだけ多くの人と出会うことはなかったと思います。応援してくださる方がたくさんいらっしゃることがわかり、大きな励みになっています。また、創業を通じて、税金や社会保険料などの社会の仕組みを勉強できたのも良かったことですね。

今後の展望についてお聞かせください。

より安心してご利用いただけるように、介護福祉士の資格を持つ妻との2名体制で運用していきたいと思っています。そして将来的には、狭い路地にも対応できる軽自動車の福祉車両を導入し、地域の皆様の多様なニーズに対応したいと考えています。それから時間帯によっては、予約が重なってしまい、ご依頼をお断りしなければならないケースもあるとお聞きしたので、同業他社との連携を深め、協力体制を整えることも視野に入れています。 また、民間救急車の認定事業者として、新型コロナで逼迫している救急搬送のサポートもできればと思っています。

最後に、創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

まずは勇気を持って相談機関に行き、情報収集をしたり、セミナーを受けたりすることから始められるといいと思います。そうすることで、不安要素が少しずつ消えていき、自分の可能性を信じられるようになり、創業への道が開けてくるのではないでしょうか。山口県は創業に対してのサポート制度がとても充実しているので、しっかり活用してぜひ夢をかなえてください!