創業者紹介
株式会社 3in(サンイン)
岩本 隆行
Takayuki Iwamoto
漁業×農業の新たな産業を生み出し
起業家教育による地方創生を目指したい。
岩本 隆行49years old
Takayuki Iwamoto
長門市出身。山口大学大学院教育学研究科を卒業後、2000年から山口県の公立高校の国語教員として勤務。2015年、山口県教育庁世界スカウトジャンボリー開催支援室指導主事として活動。2017年、赴任先の大津緑洋高校にて「大津STEAMプロジェクト」を立ち上げ、大学や企業と連携しながら生徒の活動をサポート。2022年5月、起業家教育による地方創生を目指して、株式会社 3inを創業。
株式会社 3in(サンイン)
創業:2022年5月
住所:長門市東深川1412番地2
HP:https://3in.co.jp/
※STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの頭文字からなる造語。理系や文系の枠を横断して学び、課題解決能力や論理的思考を育む教育。
これまでの経緯を教えてください。
山口県の公立高校で22年間、国語科の教員を務めてきました。最初に赴任した鹿野高校の時代から継続して行ってきたのは、地域に根ざした教育活動です。地域企業や団体と連携しながら子どもたちの主体的な学びをサポートしてきました。2017年に赴任した大津緑洋高校では、課外活動として「大津STEAM※プロジェクト」を立ち上げ、地域活性化を目指した陸上養殖システムの開発をスタート。生徒3人で始めたこのプロジェクトは、今では卒業生を含む50名以上が関わるまでに広がりを見せています。 事の発端は、漁業の衰退や過疎化などの課題を抱える長門市を何とかして盛り上げたいという生徒たちの熱い思いからでした。そこで、私の大学時代の同級生である名古屋大学工学研究科パワーエレクトロニクス研究室の教授に相談。最新の電気技術を用いた地域活性化の事例について講演してもらったのを機に、「アクアポニックス」の共同研究開発へと発展していきました。
アクアポニックスとはどのようなものですか?
水産養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」を掛け合わせた造語で、農薬や化学肥料を使わずに魚と植物を同時に育てることができる、持続可能な循環型の農業のことです。魚のフンや食べ残しをバクテリアが分解して、それを植物が栄養として吸収します。それによって水が浄化され、きれいになった水で魚が成長する仕組みとなっています。アクアポニックスは、環境汚染や生産量の安定化などの課題を解決する手法として世界的にも注目されているのですが、水の冷却やろ過装置にかかるコストなどがネックとなり、普及は進んでいません。そこで、「今まで誰もやったことのないことに挑戦してみたい」という生徒たちの希望を叶えようと、大学教授や地域企業の協力を仰ぎながらプロジェクトを推進。遂に、電力に頼らない冷却方法やバクテリアを活用したろ過システムを使った低コストのアクアポニックスを完成させ、サーモンの養殖と葉物野菜を生産することに成功しました。
どうして創業しようと思われたのですか?
背景にあるのは郷土愛です。高校卒業後、多くの教え子たちが仕事を求めて地元から出ていってしまうことに、ずっともどかしさを抱えていました。教育者として求められているのは、子どもたちに教えるだけでなく、故郷で仕事を生み出すところまで導くことなのではないだろうか…。そこで、地元で起業を志す若者をサポートし、生徒たちが開発したアクアポニックスを地場産業として育てていくために、創業することを決意しました。
事業内容を教えてください。
主な事業内容は、アクアポニックスの教材キットも含めた探究学習プログラムを、学校で実践させていただくことです。現在、大津緑洋高校大津校舎と協定を結び、大津STEAMプロジェクトをサポートしながら、改良を進めているところです。将来的には、得られた収益を教育事業と出資に回し、地域により良い循環を生み出していければと思っています。 また、アクアポニックスを使った養殖事業のスキームの構築も進めています。株式会社3inのパートナー企業では、すでに数百匹のトラフグの養殖を行っており、本格稼働に向けて動いています。将来的には、生産量を増やしてスケールアップを図る予定です。
創業に向けてどのような準備をされましたか?
ビジネスメンターとして、大学時代からご縁がある方に、創業に向けたアドバイスをお願いしました。アクアポニックスを使ったビジネスモデルの構築、事業計画書の作成、競合分析など、あらゆる面でアドバイスをいただきました。結果的には、サポートチームとして加わっていただき、株主にもなっていただきました。現在もオンライン上で意見交換しながら、本格始動に向けて準備を進めています。
創業にあたって何か公的なサービスは利用されましたか?
(公財)やまぐち産業振興財団 の「やまぐち創業補助金」に応募し、採択されました。補助金は、アクアポニックスの試作機の製作や実験用の空調設備、特許出願の費用などに使用する予定です。また、長門商工会議所が主催するセミナーにも参加しました。中小企業診断士を紹介していただき、会社設立時に必要な定款の書き方や法務局での手続きの仕方など、ポイントを絞った指導と心強いアドバイスをいただきました。
創業に向けて大変だったことは何ですか?
創業に向けた心の準備です。これまで誰もやっていないことに挑戦するには相応の覚悟が必要でした。自分が創業する意味があるのか、他の人にお願いすれば良いのではないか…自問自答する日々が続きました。でも、若者の起業家精神を育むためには、自らが起業を経験しなければ伝えられないことがある。そう信じて創業を決意しました。覚悟した瞬間に多くの人が賛同してくださり、協力を申し出てくださいました。
現在の状況を教えてください。
2021年には、設備を拡充するために名古屋大学が中心となってクラウドファンディングを実施しました。結果、目標金額を上回る336万円が集まり、新しい研究所に実証システムを設置することができました。ここでは、サクラマスの養殖と葉物野菜の栽培を試みています。 また、学校での探究学習のニーズが非常に多いことを受けて、教員生活と県教委で勤務した経験を活かして、学校向けのプログラム開発と授業サポートのシステムを作り込んでいます。2023年度には高校生の方々が県内各地域の課題解決を図る探究学習を展開し、進路選択につなげていただきます。そのために、各地の方々との連携を進めているところです。 学校向け教材キットも、2023年度からの販売に向けて準備を進めている段階です。利用者のニーズに沿ったカスタムメイドも可能です。今後は、県内企業とコラボして監視カメラやセンサーなどのオプションも開発していく予定です。
創業して良かったことは何ですか?
自分の裁量で仕事を進めていけることです。その分、責任とプレッシャーが大きくなりますが、自分が良いと思ったこと、心が向かう方向に進んでいける喜びがあります。
仕事を通じて実現したい未来を教えてください。
社会貢献のマインドを持った若い力をしっかりと育て、地域を活性化していくのが大きな夢です。そして、若手起業家やパートナー企業と一緒にレベニューシェア※できるような循環型の社会を築いていけたらいいなと思っています。
※レベニューシェアとは、複数の企業が協力して得た売上や利益を、あらかじめ決めておいた割合で分配する成果報酬型契約のひとつ
最後に、創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。
チャンスやタイミングを逃さないことです。ビジネスアイデアを考え抜いて結論が出たときには、時すでに遅しという場合もあります。変化が激しい時代の中で生き抜くためには、とりあえずやってみるという行動力、そして変化に柔軟に対応しながら軌道修正をしていく力が必要だと思っています。 新規事業は決して一人ではやり遂げることはできません。信用できるパートナーを見つけることも非常に大事です。そのためにも、日頃から感謝の気持ちを忘れずに、人脈を広げておくことをおすすめします。人との出会いを最大のチャンスに変え、ぜひ勇気をもってみなさんの想いを形にすべく、最初の一歩を踏み出してください!