創業者紹介

Japanese Tea Stand 茶翠縁

菅野 弘和

Hirokazu Sugano

赤間神宮近くの好立地を活かした
日本茶のテイクアウト専門店で、
老舗クリーニング店を守りたい。

菅野 弘和44years old

Hirokazu Sugano

岡山県出身。地元の高校を卒業後、中国電力株式会社に技術職として入社。約18年勤めた後、妻の実家である赤間神宮目の前のクリーニング店を承継。2020年2月、新たな事業として、日本茶のテイクアウト専門店「Japanese Tea Stand茶翠縁」をオープン。
 
Japanese Tea Stand 茶翠縁
創業:2019年11月
住所:下関市阿弥陀寺町8-13
HP:https://chasuien.com

高校卒業後、中国電力株式会社に技術職として入社した菅野弘和さん。結婚後、転勤を繰り返したのち、最終的に妻の地元・下関に赴任することに。そんな中、赤間神宮の目の前にある妻の実家が営むクリーニング店を手伝ううちに、直接的に誰かの役に立っていることを感じられるクリーニングの仕事に大きな魅力を感じ、約18年勤めた会社を退職し事業承継することを決意。承継後、年々売上が下がるクリーニング業界の現状を知り、危機感を募らせていた菅野さんが思いついたのは赤間神宮を訪れる外国人観光客をターゲットにした新しい事業でした。2020年、日本茶のテイクアウト専門店「Japanese Tea Stand 茶翠縁」を創業した菅野さんに、創業を決めた理由や創業前の準備、現在の状況やこれからの目標などについてお聞きしました。

これまでの経歴を教えてください。

地元・岡山県の工業高校を卒業し、中国電力株式会社に技術職として入社しました。下関、柳井、島根など中国地方内を転勤する中、下関出身の妻と出会い結婚することに。そして、妻の地元である下関にマイホームを建てました。妻の実家は、赤間神宮の目の前で約80年間続く、老舗のクリーニング店を営んでいました。結婚後、義父が働く様子をはじめて目の当たりにした時、職人としての高い技術力、そして仕事に取り組むひたむきな姿勢に深く感銘を受けました。当時の仕事に大きな不満があった訳ではないのですが、どこか物足りなさを感じていたこともあって、休みの日にクリーニング店を手伝うようになっていきました。そうするうちに、接客の楽しさ、キレイになった衣類を見た時の達成感、そして、直接的に「誰かの役に立っている!」ということが実感できるクリーニングという仕事に、大きな魅力を感じるように…。そんな時、当時60代半ばだった義父が「70歳になったら引退して店を畳む」と言っているのを聞いて、このまま失くしてしまうのはもったいないと思い、クリーニング店を承継することを決意しました。

クリーニング店に日本茶テイクアウト店を併設しようと思われたのはなぜですか?

近年、クリーニング業界は衰退の一途を辿っています。当店も例外ではありません。周辺地域にチラシを配ったり、友人や知人に紹介してもらったりなど、いろいろなことを試してみましたが、なかなか売上が伸びず限界を感じるようになっていました。そんな時に、私の目に飛び込んできたのは、赤間神宮を訪れるたくさんの観光客でした。赤間神宮の周辺には飲食店が少ないので、観光客をターゲットとするお店をオープンすれば利益を得ることができるかもしれない、クリーニング店を知ってもらうきっかけになるかもしれない…、そう思いついたんです。そして、外国人観光客も多い赤間神宮の目の前という立地を最大限に活かすには、日本人のソウルドリンクである日本茶がぴったりだと考えました。そこからは日本茶専門店の構想がどんどん膨らんでいきました。

クリーニング店と飲食店の組み合わせは珍しいですね。

構想を練る中で色々調べていくうちに、都市部で流行りだしている「ミクストラン(ミックス+レストラン、複合型飲食店を意味する造語)」を知り、「まさにこれだ!」と思いました。しかし、クリーニング店と飲食店の複合店舗は全国的にも例のない業態だったので参考にできるものがなく、本当に実現できるのかもわかりませんでした。そこで、とりあえずインターネットで見つけた雛形を参考に事業計画書を作成し、密かに金融機関の方に確認してもらっていました。

温めていた構想の実現に踏み切ったきっかけは何だったのですか?

創業したいという気持ちはあったのですが、創業資金の問題で最初の一歩を踏み出せずにいました。そんな時に下関商工会議所で「やまぐち創業補助金」の話を聞き、「これは大きなチャンスだ!」と思ったのですが、「どうしてもクリーニング店をなくしたくない」と家族を説得してクリーニング店の承継に踏み切った私が、継いでからたった2〜3年のうちに全く別の新しい事業に着手すると言ったら家族はどう思うだろうか…という不安がありました。けれども、申込締切まで2週間ちょっとしか残されていなかったので、ただ単に飲食業に手を伸ばすのではなく、クリーニング店をずっと続けるための新事業だと必死になって説明しました。家族全員が理解を示してくれたときは、本当にホッとしましたね。

「やまぐち創業補助金」に申し込むための準備は大変でしたか?

事業計画書はすでに金融機関の担当者に見てもらっていたものなので、計画自体を大きく修正することはありませんでした。ただ、機器の購入費や材料の仕入先などはまだ具体的な内容ではなかったので、締め切りまでの約2週間で調べ直して事業計画書に落とし込んでいく作業は本当に大変でしたね。準備期間が短かったので、本来なら経費として入れられたものを記入し忘れていたり、実際にかかった費用と計画書に記入していた金額がかけ離れていたりなどの失敗もありました。もう少し早くこの補助金のことを知っていれば、準備にしっかりと時間をかけられたのですが…。改めて、さまざまなことに対してアンテナを張っておく重要性を感じましたね。

メニューの開発や仕入れ先探しはどのように進めたのですか?

日本茶専門店として看板を掲げる以上は抹茶・ほうじ茶の味をしっかりと伝えなければならないので、できるだけ手作業で一杯一杯丁寧に作って提供することを決めました。そのため、妻と二人で可能な限り機械に頼らないレシピを考案しました。日本茶専門店やカフェを巡ったり、グルメ通の友人・知人からの意見を参考したりして、納得のいく味にたどり着くまで何度も改良を重ねました。厨房機器の購入や原料の仕入先については、妻が以前勤めていたアン・シャーリーの岡シェフをはじめ、山口市の駅通りにある日本茶専門店八十八さんなどに相談させていただきました。日本茶ソムリエでもある八十八店主の吉光さんからのアドバイスは、飲食店で働いた経験のない私にとって参考になることばかりでした。また、吉光さんは創業の先輩でもあるので、創業に関することもたくさん教えてくださり、その存在はとても心強かったですね。吉光さんを通じたご縁が今も茶翠縁を支えてくれています。

創業資金はどのようにして準備されましたか?

ほとんどが金融機関からの借入で、一部自己資金と補助金を活用しました。使い道は主に店舗の改装工事と厨房機器の購入、そして材料の仕入れです。クリーニング店と飲食店を併設するという前例のない事業形態だったので、本当に営業許可が下りるのだろうかと保健所の検査が終わるまではずっと不安でした。また、クリーニング店の営業を続けながらの改装だったので、お客様からお預かりした衣類に影響が出ないよう、改装工事は注意深く進めていかなければなりませんでした。結局、完成するまでに約半年を要しました。

現在の状況はいかがですか?

クリーニング店と日本茶専門店という異色の組み合わせということで、多くのテレビや雑誌等が取り上げてくださり、オープン時には予想以上にたくさんのお客様がご来店してくださいました。しかし、開店して2ヵ月目あたりから新型コロナウイルスの影響が出始め、1日に2〜3人しかお客様が来ない日が何日も続き、この先どうなってしまうんだろうととても不安になりました。8月中旬あたりからやっと観光客が戻り始め、現在は少しずつではありますが売上が上がってきています。当初は観光客をメインターゲットにしていましたが、今は地元のお客様の心をしっかりと掴むことに力を注いでいます。その結果、月に何度も足を運んでくださる地元の方が増えてきているように感じます。

創業して良かったことは何ですか?

ご近所さんや赤間神宮のみなさん、国内外のあちこちから来られる観光客の方々とのご縁が生まれ、日々たくさんの刺激をいただいています。また、以前に比べてクリーニング店の知名度がグッと上がりました。来てくださったお客様から、「すぐ近くのマンションに住んでいるのにクリーニング店を知らなかった」とか「本当にここにクリーニング店があったんですね!」という声をよく聞きます。歩いて5分くらいの距離に住んでいるご高齢の方もちょくちょく来てくださるようになりました。すぐにクリーニング店の売上につながるとは考えてはいませんが、衣替えのシーズンが来た時に思い出してもらえたら大成功ですね。

今後の目標を教えてください。

茶翠縁の知名度をもっともっと上げ、ファンを増やしていくことです。そして、お店に来てくださったお客様にクリーニング店の存在を知ってもらい、売上増につなげていきたいですね。現在、クリーニング事業の内訳は、衣類の持ち込みが2割、集配が8割です。今は義父と二人でやっているので、洗いと集配を分担することができますが、先々難しくなることは目に見えています。ですから、今のうちにしっかりと種を撒いて「来てもらえる店」に育て、将来的には9割を持ち込みにしていきたいです。それと、いずれは2階部分を改装して、茶翠縁のメニューを楽しみながら交流できるスペースを作る計画です。講師を招いてソーイング教室を開いたり、私がアイロンのかけ方を教えたり…と、「面倒くさい」という家事のネガティブなイメージを払拭する手助けをしたいです。この場所をきっかけに新たな交流が生まれ、地域が盛り上がっていけば嬉しいですね。

創業をお考えの方にアドバイスをお願いします。

想像しているだけでは何も始まらないので、とにかく行動することをお勧めします。一歩踏み出してみるとアドバイスをしてくださる経営者の先輩や協力してくれる仲間たちが自然と現れるものです。それと、計画はできるだけ時間をかけてしっかりと立てた方がいいと思います。まずは山口県や市、商工会議所、やまぐち産業振興財団など専門の機関に相談してみるといいと思いますよ。